提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【27】

2009年09月24日

農政をゼロから見直す

     明治大学客員教授 村田 泰夫


 民主党政権が誕生して、各省庁とも対応に大わらわである。農林水産大臣には旧社会党出身の赤松広隆氏(愛知5区)が就任した。初登庁の際、正面玄関に幹部ら職員が出迎えるのが恒例になっているが、新大臣側から「その必要はない」といわれた。それ自体はささいなことだが、一事が万事。これまでの仕事のスタイルとこれからのスタイルがまったく異なることを、農水省の職員たちに思い知らせる「事件」であった。

 こんどの政権交代は、自民党内の総裁交代による政権交代とはまったく質が異なる。自民党時代でも首相や担当大臣がかわれば、それなりに政策も軌道修正された。しかし、仕事のやり方が変わったわけではなかった。麻生内閣から鳩山内閣への交代は、政策決定システムそのものを大きく変えるものである。


 農水省でいえば、農政の根幹は大臣と副大臣、政務官の「政務3役」で議論し決められる。これまでも副大臣や政務官はいたが、自民党のボスたちが各派閥の均衡を考え当選回数によって配分していたから、具体的な政策について大臣と話し合うことはなかった。いわばセレモニー要員。どこかで会合や式典があれば、大臣に代わって「開会のあいさつ」や「祝辞」「乾杯のあいさつ」などを代読する役目だ。


 鳩山政権下では、副大臣や政務官は大臣が推薦する。チームで仕事を進めるため、トップである大臣の意向を尊重することにしたのだ。赤松農水相の下では、副大臣に就任した山田正彦氏(長崎3区)と郡司彰氏(参院茨木)、政務官に就任した佐々木隆博氏(北海道6区)と舟山康江氏(参院山形)ら合わせて5人で「赤松チーム」をつくり、基本的な政策を決めていく。これまで、事務次官を筆頭に各局長ら官僚たちが政策を事実上決定し、それを大臣や与党の政策調査会・部会がオーソライズしてきたのとは様変わりである。

 さらに、政策決定について政府・与党の一元化をはかるため、これまで党の政策調査会に置いていた部門会議を廃止し、各省庁に設置する「政策会議」に移す。政策会議は政府と与党議員との意見交換の場で、副大臣が主催する。各種団体からの要請も政策会議の場で議論する。与党議員や各種団体から提案された政策案は政策会議で議論され、取り上げるべきだと判断されれば、されに大臣チームで議論され採用される。官僚たちはその折々に選択肢や判断に必要なデータを提供する。

 「官僚主導政治の打破」を公約に掲げて選挙で大勝した鳩山政権が、さっそく作った「政治主導」の政策決定システムである。官邸には国家戦略室と行政刷新会議が設置された。国の予算の根幹や外交の基本方針などは国家戦略室で決め、外郭団体を含め国の予算の無駄を徹底的に洗い直すのが行政刷新会議である。


 鳩山政権の打ち出した政治主導の政策決定システムがきちんと機能するかどうかは、これからの運用次第である。しかし、政権発足からわずか1カ月足らずの間に、私たち国民は、これまでいかに官僚主導の政治に振り回されてきたかを思い知ることになった。

 たとえば「高速道路の料金無料化」の話。これまで自民党政権下では、無料化によって高速道路の渋滞がひどくなることばかり国土交通省から聞かされてきた。ところが、民主党政権になってみると、交通量が分散され一般道の渋滞が緩和されるなどメリットも多いという調査結果が出ていたが、そのデータは隠されていたことがわかった。無料化によって高速道路会社の役割が小さくなれば、国交省の官僚たちの既得権益が侵されるので、都合の悪いデータは出さなかったらしい。


 農政の分野でもそれはいえる。米の生産調整(減反)をやめると米価が下落して農家が困る話ばかり聞かされてきた。ところが、麻生政権が総辞職する前日、石破茂・前農相が公表した「米の生産調整に関する第2次シミュレーション」によると、生産調整を選択制にして減反を緩和すると米価が下落するので、その分を国が補てんする必要があるが、それでも米価下落による消費者メリットの方が大きく、国民経済的にはプラスであることがわかった。

 民主党が目玉政策として打ち出した「戸別所得補償制度」についても、これまで事務作業がたいへんで「できない」と農水官僚たちは言い募っていた。しかし、生産調整面積の配分で、市町村や農協の職員が四苦八苦している現状よりましであることが、明らかになりつつある。このほかにも、新しい政策がどんどん打ち出されてくる予感がする。


 これまで「できない」というのは、既得権益者たちに都合が悪いということにすぎなかった。ゼロから見直せば「できる」政策も出てくることを私たちに教えてくれた。そのことだけでも、鳩山政権発足30日の意味はある。(2009年09月24日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。