提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政 【25】

2009年07月15日

バイオスフィアって知ってますか

     明治大学客員教授 村田 泰夫

 
 「BIOSPHERE」(バイオスフィア)という表題の不思議な冊子(写真)を、全国水土里ネットの関係者からもらった。バイオスフィアとは、水や空気や食料を調達できる生存圏を意味する英語。自給自足圏といってもいい。地球はバイオスフィアだし、森や農地のある田園地帯もバイオスフィアといえる。


 40ページ余りの冊子は、2編の漫画からなっている。人気漫画「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」の作者として名高い鳥山明さんの特別なはからいでつくられた「おいしい島のウーさま」と「なぜテクテク星人はぐるぐる島を狙っているの?」が秀逸なのだ。


 大海に浮かぶ「ぐるぐる島」は、自然豊かな田舎の島。そこに「テクテク星」の星人が宇宙船でやってきて「大金を出すから島を売ってくれ」と強談判する。以前は地球と同じように自然が豊かだったテクテク星は、開発を進め過ぎて自然を失い、気象はめちゃめちゃ、水も足りず砂漠のような星になってしまった。テクテク星はバイオスフィア(自給自足できる生存圏)でなくなってしまったのだ。星人たちは、バイオドームというガラスで覆われた建物の中に、疑似地球を再現して暮らしている。ぐるぐる島の樹木や土、いわばバイオ資源が、のどから手が出るほど欲しいのだ。


 「もし、宇宙人が地球に攻めてくるとしたら、地球の何を狙うでしょうか?」。冊子「バイオスフィア」は、私たちにそう問いかける。ぐるぐる島の土壌には1グラムに何億という微生物がすんでいて、落ち葉などを分解し、それを養分として木や植物が育つ。森から流れ出る川には養分がたくさん含まれていて、それが海に流れ込み、植物プランクトンを育て、それを餌に動物プランクトンが育ち、それを幼魚が食べて大きな魚に育つ。自然界にごみはなく、すべて循環している。テクテク星人は、地球を攻めてでも「生きている土」が欲しいのである。


 作者の鳥山さんは、冊子の中でこういっている。
 「便利で高度なテクノロジーの恩恵にどっぷりつかっている毎日で、近代文明を否定するつもりなどは、まったくありません。そんな僕でさえ、現代社会の『農』や自然を軽視しているかのような雰囲気には、首をひねるばかりです」
 「子どもたちによる『あこがれの職業ベスト10』に農業も堂々とランクインするような社会って、まさにベストバランスだと思いませんか?」


 冊子はまた、こう解説してみせる。
 「地下の石炭や石油を加工して製品に作りかえることを、私たちは工業生産と呼んできました。しかしそれは『生産』ではなく『消費』だったのです。掘り出した鉱物資源は、消費してしまえばなくなります。それに対し、植物は無尽蔵の太陽エネルギーを食物にかえ、何万年でも食料を生産し続けます。真に生産と呼べるのは、バイオ資源だけ。『農』とは、このバイオ資源を使って、太陽エネルギーを食物にかえる仕事なのです」


 そして冊子の巻末には、全国都道府県ごとの「バイオ資源ポイント」のランキング表が載っている。住民1人当たりの水田と畑地面積が「農地資源ポイント」、住民1人当たりの森林面積が「森林資源ポイント」、農業者数が「人的資源ポイント」。注目すべきは人的資源ポイントの数え方。65歳以上のベテラン農業者はさまざまなノウハウを蓄積しており、「おおげさにいえば、2000年に及ぶわが国の稲作の知見が凝縮されている」ので、65歳未満の農業者の2倍にして数えていることだ。


 バイオスフィア度の全国市町村ランキングによると、1位は福島県桧枝岐村、2位は秋田県大潟村、3位は北海道幌加内町だった。バイオスフィア度の高い市町村は、万が一緊急事態が起きても生き延びることができる度合いが強いということだ。わが町がテクテク星のようにならないように、私たち一人ひとりが考えなければならない。


 この冊子を制作したのは、NPO法人「田園社会プロジェクト」。理事長である金子照美さんは、制作のねらいをこう語る。「農村で農地や水資源を守ろうという運動が盛んになっていることは心強い。しかし、運動は閉ざされた世界で展開されている。もっと都市住民を巻き込まなければ広がらないので、冊子とネットで訴えた」という。


 冊子は一般の書店では販売していないが、全国各地の水土里ネット(土地改良区)に問い合わせれば、手に入るかもしれない。また、バイオ資源ポイントのランキングは、バイオスフィア ―Think About 2030で閲覧できる。(2009年07月15日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。