提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政 【24】

2009年06月19日

それでも農政改革は必要だ

     明治大学客員教授 村田 泰夫

 
 今年はガリレオ・ガリレイが最初の望遠鏡を作って400年になる。そのガリレオが「地動説」を唱えて宗教裁判で有罪になったとき、「それでも地球は動いている」と言った話は有名である。それにならえば、農林水産省の石破茂大臣は「それでも農政改革は必要だ」と叫びたい心境ではないか。


 石破農水相がこだわった米の生産調整の見直しを柱とした農政改革が、今年度は頓挫する見通しになった。政府の「骨太の方針2009」の素案に、生産調整の見直しが盛り込まれず、「あり方について検討を進める」という表現にとどまってしまったからである。

 農政の責任者の打ち出した方針が実行できないのは、与党である自民党の農林族議員たちが猛烈に抵抗したからである。農林族の中には「こんな評判の悪い農水相は初めてだ」という声もあがっているという。耳を疑う。自殺した大臣の後にバンソウコウ大臣、農業共済不正大臣に事故米失言癖大臣……と、評判の悪い大臣ばかり続いた後に、やっとまともな大臣が座ったと思うのが世間の常識である。


 生産調整に賛成か反対かは、おおいに議論したらいい。なぜ、食用米を減産しなければならないのか。米の代わりに作付ける麦・大豆はきちんと栽培されているのか。生産調整に参加しない農家にはどんな措置をとったらいいのか。転作せずに遊ばせていたり耕作放棄地にしてしまったりしている農地を、有効に活用する手だてはないのか。生産調整を強化すれば担い手の経営意欲が増すのか。


 石破農水相の投げかけた問いは重い。日本の農業、農村には閉塞感が満ちている。この先に明るい展望を描くことのできない閉塞感である。なぜか。1960年には607万haあった農地がいまは463万haしかない。うち埼玉県の面積に相当する39万haが耕作放棄地である。基幹的農業従事者は60年の1175万人から224万人に激減した。うち57%が65歳以上である。農業産出額は84年の11兆7千億円から8兆3千億円に3割も減った。


murata_nousei24_image2.jpg 自給率は65年の73%から40%に減った。自給率を少しでも上げるべきだというのが国民の願いだが、農村の現実は農地が荒れ、高齢者ばかりで担い手がいない。農山村の集落の中には、冠婚葬祭やお祭りなどの共同活動さえ維持することのできない「限界集落」が出てきて、やがて消滅しようとしている。


 こうした日本農業の現状を見れば、いますぐ農政改革に取り組まなければならない。どの方向かは問わず、「それでも農政改革は必要である」。とくに、「米の生産調整」の中に日本農業の現実が詰まっている。

 幸か不幸か、穀物相場が高騰し、農薬使用や偽装表示など食の安全への不安が募っているいま、農業への国民の関心が高まっている。こういう時期こそ、農政改革論議を深める絶好のチャンスである。日本の農業をどうしたら強くできるのか、地域の農山村をどうしたら元気にできるのか。農政改革論議を棚上げしている余裕はない。(2009年06月16日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。