提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政 【11】

2008年06月03日

EUの減反廃止に学ぶこと

     明治大学客員教授 村田 泰夫


 欧州連合(EU)が5月下旬、穀物の減反政策の廃止を発表した。世界的な穀物需要の増大に対応できるように、域内農家に穀物の増産を促すのが狙いだ。


 EUは慢性的な過剰生産による穀物価格の低迷を防ぐため、域内農家に対し、耕地面積の10%の生産調整(減反)を義務づけていた。

 しかし、一昨年あたりから小麦や大麦などの穀物価格が高騰してきたので、昨年秋と今春に限って、穀物の減反を一時的に停止していた。今回その措置を恒久的なものとし、減反政策を撤廃した。


 いまや、世界は「食料不足」にどのように対処するかが最大の課題である。

 5月下旬、横浜で開かれた第4回アフリカ開発会議(TICAD)では、アフリカ40数カ国の首脳たちから、「食料援助」と「食料増産のための支援」を求める声が噴出した。


 国連食糧農業機関(FAO)は、6月初旬ローマで緊急の「食料サミット」を開く。今年になってから急速に表面化した食料危機への対応策を話し合うためだ。

 食料サミットで強調されることは「食料生産の増強」である。先進国はもちろん途上国での食料増産を打ち出す。そのためには、たとえば途上国のかんがい施設や、途上国の風土に適した新品種の開発について、先進国が技術面や資金面で支援する。

 一方、今回の食料危機は、人間の食料や家畜の飼料となっていた穀物が、バイオ燃料の原料として大量に「横取り」されたのが一因である。このため、「バイオ燃料は人間の食料を奪わないこと」を宣言する。


 国連機関が食料増産策を話し合い、EUは減反を廃止し、世界中が食料不足で悩んでいる時、ひとり豊かな日本だけ米の減反を強化している。

 自民党ですら違和感を抱いたのであろう。谷垣貞一政調会長を委員長とする「日本の活力創造特命委員会」は5月末、バイオ燃料の原料や家畜の飼料とする米の増産を盛り込んだ報告をまとめた。


 これが一部で、「米の減反政策の見直し」と受け取られたため、農協が火消しに躍起になるという騒ぎも起きた。自民党の特命委の趣旨は、非食用であるバイオ燃料用と家畜飼料用の米の増産であって、ごはんとして食べられるお米の生産調整の見直しではない


 水田を草ぼうぼうにして放置したり、品質の悪い麦や大豆の「捨て作り」を黙認したりしている現状を改め、水田をめいっぱい活用すべきだとする特命委の趣旨は正しい。


 水田面積の4割も減反する生産縮小策で価格を維持するいまの政策は、日本というミクロの世界でしか通用しない。

 食用米の生産に枠をはめるのはやむを得ないとしても、大切な資源である水田を全部活用する生産拡大策でコストを下げる政策の方が、食料不足に悩む世界の現状にフィットする。

 わが国農業が得意とする米を増産し、それを飼料に回すことで、海外から購入する飼料穀物を削減することができる。その方が結果的にわが国の食料自給率の向上にもつながる。EUの減反廃止から学ぶことは多い。(2008・5・30)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。