提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


事例で見る安心安全の取り組み 【3】  

2007年06月06日

日常性の中での継続的な安全情報公開、さらに、何を訴えるべきかを、見きわめよう
    マーケティング・プロデューサー 平岡豊


●日常性の中での安全情報公開

 大分県白杵市では、給食用野菜の生産にユニークな「仕組み」をつくっている。

圃場に立てられた看板と生産者(提供:大分県臼杵市役所)

 JA女性部の協力で、耕作放棄地などでの野菜づくりを進めているが、「給食畑の野菜」というブランドをつくったのだ。「JA女性部のお母さんたちが、地元の子供たちのためにつくった野菜」というキャッチフレーズもつくったし、ブランドと生産者の名前の入った看板を、それぞれの圃場に立てたのである。関係者によると、「給食畑の野菜」ブランドと圃場での生産者名の明示によって、消費者からの安全への共感も得られるという。これによって、安全な野菜づくりが「公約」されたことになり、ある意味での生産情報も「開示」されている、と思うのだ。

 考えてみると、生産の現場を公開することが重要なのだ。

 一例だが、JA横浜では、「ハマッ子」ブランドで野菜を出荷しており、地元スーパーなどにも並んでいる。生産者の写真などを掲示しているのだが、もう「ひと工夫」しており、たとえばAさんの野菜が並んだ棚に、本人の写真と圃場までの「道案内」がついているのだ。「車で約5分。お気軽にお越しください」といった趣旨の掲示を見ると、消費者は安心してしまう。日時と場所を特定した公開ではなく、「いつでもOK」だから、信頼感が生まれてくるのである。

 JA横浜によると、都市農業は、生産量としての貢献はできないが、安全、安心な農業のためのPRセンターにはなれる、という。消費者が毎日見ている中で、農業のあるべき姿をアピールできるのだ。白杵市にしても横浜市にしても、日常性の中での「安全情報公開」といった姿勢を大切にしているのである。


●インターネットで安全をアピール

 ところが、消費地と産地が遠く離れた場合には、どう対応したらいいのか。生協などでは、担当者や組合員の代表者が現地に視察に行く、といった方式で安全を確認している事例が見られるが、これでは、どうしても「非日常」となってしまう。「いつでもOK」という訳にもいかない。そこで、「インターネット」である。


 新聞報道で知ったが、お茶の伊藤園では、鹿児島県の契約農家の新茶生産の様子を、ほぼ毎日リポートするブログ(日記的サイト)を開設したという。

 2006年5月中旬までだが、伊藤園が依頼した消費者の男性が農家を密着取材し、お茶の摘み取り作業や生活風景、伊藤園の取り組みなどを伝えるのだ。文章や写真、ビデオなどを活用するので、状況の推移が「実感情報」として伝わると思う。それを見た人が、自分のブログに関連記事を書いたことを表示できる「トラックバック」機能やコメント機能も備えているというから、「多方向情報共有システム」である。当然ながら、取材する男性の「中立性」が重視される訳だが、何といっても農作業のプロセスを「毎日」、となるのだから、「日常性の中での公正な視点」は確保されている、と思う。


「企業ジャーナリズム」には「企画」も大切

 話はとぶが、ジャーナリズムの定義は、一般的に、公正な立場での報道、解説、論評、とされている。伊藤園にしても、公正な立場からの情報発信だろうから、ある意味でのジャーナリズムととらえてもいいと思う。しかも映像も活用されるから、作業の実態や流れる汗を通して、生産面での苦労などを「報道」することも可能である。

 そうなると「解説」と「論評」が重要になる。安全で安心なお茶づくりのために、どれだけの心くばりと労力がそそがれているかを解説し、生産者側からの「安全をふまえた再生産可能価格」について、消費者の理解を求める「論評」を行ってもいいと思うのだ。

 ところで、その対象となる消費者は、5つのタイプに分類されると思う。

 1)頭脳タイプ
 2)五感タイプ
 3)心情タイプ
 4)胃袋タイプ
 5)財布タイプ     であり、重なり合うことも多い。


 頭脳タイプはとりわけ「安全」についての関心が高いと思う。 五感タイプは風味や食感などを重視するし、心情タイプは初物や縁起物、農家の苦労などに心を配る。冗談のようだが、頭脳タイプと財布タイプが重なるとシンどいことになる。絶対的に安全なものを可能な限りの安価で、となるのである。これでは日本の農業はやっていけない。

 しかし、お茶づくりの現場を継続的に見ていくと、頭脳タイプも安心するだろうし、財布タイプも極端な安価要求は無理だと感じてくれるはずである。なによりも、五感タイプと心情タイプの共感が深まればうれしい展望が開けてくる。安全は当然として、味と香りに満足し、さらには農村風景や環境なども守ってくれるお茶づくりなら、多少は高いようでも愛飲しよう、となってくれると思うのだ。


 そうなると、「企業ジャーナリズム」にとっては、報道、解説、論評に加えて、「企画」ということが大切になる。伊藤園の「お茶ブログ」的なものは、生産者側でも似たような情報発信をしている事例はある。安全、安心をベースとした上で、さらに「何をアピールするか」という「企画」をきっちりと構築することが重要だと思うのである。
(月刊「日本の農業」2006年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載)

ひらおか しげる

昭和11年生まれ、大分県出身。大阪外国語大学卒、九州大学博士(農学)。昭和36年(株)博報堂入社。農業分野の広報及びマーケティング企画、プロジェクト等を長年担当。平成8年定年退職。現在福岡県立大学非常勤講師(マスコミュニケーション論)。著書、農業関連紙・誌への連載多数。