提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


事例で見る安心安全の取り組み 【2】

2007年04月13日

安全をカタチで見せて安心づくりを
    マーケティング・プロデューサー 平岡豊


 農業関連のシンポジウムで目にしたことです。生協の仕入れ責任者の発言でしたが、直売所での農産物の鮮度と安全は、客観的には保証されていないことが多いというのです。地産地消の動きの中で、地元の野菜は鮮度がいいし、国産だから安心、安全だと多くの消費者はとらえているが、それは、たんなるイメージにすぎない、と声高に発言していました。言われてみると、ほとんどの直売所では、生産者の持ちこんだ農産物をそのまま並べています。鮮度や安全についての科学的な保証はされていません。


 笑い話ですが、九州のある卸売市場が、地元の生産者からの個人出荷を集めて、量販店の直売コーナーに納品する、という業務を開始した際のことです。その市場では、「今朝採り野菜」というブランドをつくったのですが、これを中山間地域の直売所のリーダーが高く評価している。これまで自分たちは、「朝採り野菜」としてきたが、これからは「今朝採り野菜」に変えるというのです。


事情を聞いてみると、その直売所に出荷しているおばあちゃんで、時々古い野菜を持ちこむ人がいる。地元の先輩なのでさりげなく注意するのだが、しばらくするとまた持ちこむ。おまけに、朝採りにウソはないと言い張る。そこで、どう見ても古いとクレームをつけると、「ばってん、2日前の朝採りバイ」と開きなおられたというのです。言い負かされて口惜しかったが、これが「今朝採り」となると、へ理屈は通らないと喜んでいました。農村のリーダーは大変だと同情したものです。


 さて、鮮度についてはともかくとして、こういった状況の中で、安全についての対応がきっちりとできるのか、となると心細くなってきます。どこかの機関が直売所の抜き取り検査をすれば、店舗数も多いだけに、引っかかる事例も出るのではないかと思うのです。


●安全への目くばりをきっちりと

 そこで、1月号で述べた、安全を阻む「7つ」の要因をふまえて、対応策を考えてみます。まず、故意についてですが、農業の場合には、「意識的ではない」にしても、故意的な状況ととられる場合がある、ということです。


ある都市圏の直売所のリーダーに伺ったのですが、市内のチマチマとした圃場で野菜をいろいろと作っているので、農薬の汚染が起こる心配がある。それを承知でやっていていいのか、と悩んでおられる。たしかに、故意ではないにしても非難はされるかもしれません。しかし、往々にして、隣の野菜に使っている農薬が風などで飛来して汚染したとしても、当事者に知識がなかったり意識が低い場合には、そのまま出荷してしまいます。


また、マイナー農作物には登録された農薬も少ないので、これまで「馴れ」で類似のものを安易に使ってしまった、という「なりゆき故意」もないとは言えない。確信的ではないとしても、やはり許されることではありません。そこらあたりへの対応策を、「カタチ」として消費者に見せることが重要になると思うのです。


●「圃場連携」による、安心、安全の確保

 そこで、「同一品目は同一圃場でつくる」といった「圃場連携」方式はどうでしょうか。隣接したせまい圃場で、それぞれが別の品目をつくるのではなく、同じ品目をまとめてつくるのです。これが成立すると、意図せざる汚染の防止策としてはかなりの効果があり、消費者も安心できるのではないでしょうか。先述した都市圏の直売所出荷組合の会長さんは、こういった方向での生産を進めていきたい、と語っていました。作業面や心情面での問題はあるでしょうが、ぜひご一考いただきたいものです。


 次に、楽観、怠慢、無知、といった領域での対応策です。これについては、直売所への出荷グループで、月に一度の勉強会を続けている事例があります。「認証野菜」を目ざす30人ほどの生産者が、農業試験場や普及指導センターの専門家を招いて、きちんとした勉強会をやっているのです。


このグループは、直売所への出荷にあたって、有機無農薬のものには金印、2~3回の農薬使用には銀印といったシールをつくり、該当する農産物に貼っています。残念ながら実状としては、それだけの手間をかけているのに、消費者はそれに見合う金額を払ってくれないそうですが、こういった活動はマスコミで取りあげられ、消費者からの全般的な信頼は高まっているとのことでした。


 ところで、安心、安全についての究極的な保証は、「出荷前検査」だと思います。

あるJAがつくった「環境センター」がありますが、ここでは、土壌検査、残留農薬検査、成分検査をおこなっている。合格すれば、安心、安全に加えて品質面でもお墨付きとなりますが、大産地としての出荷量をふまえると、全量は無理で、サンプル検査とならざるを得ません。


そこでこのJAでは、うっかりミスや故意を防ぐために、当該品目の出荷期間中に必ず一度は、すべての出荷者をサンプリングする、と申し合わせているそうです。これによって少なくとも、「故意」に関しては大きな抑止力となるし、うっかりミスを防ぐための「作業緊張感」も高めることができます。


もし自分が引っかかるようなことをして産地が出荷停止などになったら、責任は重大です。さらには、こういった方式を流通側にアピールすることで、安心、安全についての産地評価を得ているそうです。ぜひ、これらの事例を参考にしていただきたいと思います。
(月刊「日本の農業」2006年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載)

ひらおか しげる

昭和11年生まれ、大分県出身。大阪外国語大学卒、九州大学博士(農学)。昭和36年(株)博報堂入社。農業分野の広報及びマーケティング企画、プロジェクト等を長年担当。平成8年定年退職。現在福岡県立大学非常勤講師(マスコミュニケーション論)。著書、農業関連紙・誌への連載多数。