提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


みどりの食べ歩き・出会い旅 【14】

2010年04月09日

食料自給率1%の東京で、東京産大豆100%の納豆を味わう!

         榊田 みどり


 先日、東京都日野市にお邪魔した。訪問先は、市立平山小学校。実は、この日は、日野産大豆100%の納豆が、初めて平山小学校の給食に登場する日だった。日野市の農業者・小林和男さんから、「来ない?」と誘っていただき、私もちゃっかり、日野産納豆を食べさせてもらおうと、押しかけたわけである。

 東京産大豆100%納豆が、どれだけ貴重か、おわかりだろうか。なにしろ、東京都の大豆圃場は、全体で10haもない。統計上、集荷率もゼロ。市場には、ほとんど出ていない。要するに、地縁か血縁か“知縁”でもない限り、東京産大豆を味わうのは至難の業なのである。

 都内ではまだ農地が残っているほうといえる日野市でさえ、大豆自給率は、統計上ゼロ。「これをなんとか1%にしたい」と、小林さんが呼びかけ、遊休農地を借りて大豆を栽培する「日野産大豆プロジェクト」が始まったのは、7年前のことである。初年度、わずか120kgだった収穫量は、翌年240kg、3年目は530kgと増え続け、昨年はとうとう1tの収穫を達成した。今では、地元の豆腐店とのコラボで、日野産大豆100%の豆腐が、学校給食に提供されるまでになっている。今度は納豆も! というのが、今回のチャレンジなのだ。


 実は、日野市は、学校給食業界で知らないひとがいないほど、全国屈指のハイレベルな地場型給食のまち。都市化が進む中で、1983年から学校給食に地場産野菜の導入をスタートし、その後、平山地区では、小林さんら、食材を供給する農業者有志による「育て!農の応援団」という組織も生まれ、給食と結びついた農業体験や食農教育活動が展開されてきた。


 「学校給食に食材を提供」というと、農業者が従来生産してきた野菜や米を学校に提供しているのが普通だが、小林さんたちは、ちょっとちがう。栄養士さんたちと話し合い、「古代米がほしい」と聞けば、「作ってみようか」と古代米の栽培を始め、「なんでゴマは中国産しかないのかしら」と言われれば、「それじゃ、作ってみようか」(!!)
 つまり、学校給食の現場のニーズに合わせて、自分が今まで栽培したこともない食材の生産にまで、チャレンジしてきたのだ。大豆の栽培も同様で、「遺伝子組み換えの心配のない大豆を子どもたちに食べさせたい」という学校栄養士さんの声に応えて始めたものだ。


 これらの栽培は、小学校の子どもたちの農業体験とも絡めて行われている。とくに「日野産大豆プロジェクト」には、栄養士さん、消費者団体メンバー、地元大学の研究者、大学生など、多くの地域のひとびとが参加している。もちろん、みんなボランティアだ。
 なかでも、栽培作業の中心的な役割を担う最大の主役は、今や、学校給食調理員さんたちになっている。給食で使用する食材の生産にまでかかわっている調理員さんなど、全国広しといえども、日野市くらいでしかお目にかかれないのではあるまいか。


 さて、平山小学校に到着し、ガラス張りの給食室に行くと、学校栄養士の松尾信子さんが納豆1個を手に、給食室から出て来てくれた。手渡してくれた納豆のパックには、「畑から食卓まで、日本の農業と食生活を応援します」と書かれていた。製造会社、登喜和食品のポリシーである。

 日野市のおとなりの府中市にある登喜和食品は、かねてから、社長自らが各地の産地を訪ね歩き、国産・無農薬大豆を使った納豆を作り続けている店だ。大豆の作り手、納豆の作り手、給食の作り手。それぞれの思いがあって初めて、この納豆は誕生したのだと改めて思う。


 給食の時間。子どもたちは、おいしそうに納豆ごはんを食べていた。その笑顔を見ながら、地場食材の意味を改めて考えた。
 効率だけを考えれば、地場食材は、量も季節も限られるから、学校栄養士にとって面倒な存在だ。土が着いたり規格がふぞろいだから、調理員にとっても面倒だし、学校ごとに出荷重量を量り、直接学校に持ち混まなければならない農業者にとっても面倒だ。小林さんたちのように、学校の要望に合わせた野菜の生産を求められたら、なおさらだろう。


 それぞれが、それぞれの立場で、少しずつ面倒さを負担しなければ、地場型給食は成り立たない。それぞれの立場を超えて「地域の子どもたちのために」という思いを共有できなければ、継続できないのだ。
 農業や農業者に対する地域の理解を広げ、地域との連携を広げていくためにも、「自分を理解してほしい」という思い以上に、相手を理解し共有できる思いを探すことが、実はとても大切なのではなかろうか。


写真 上から順番に

●日野産大豆100%納豆。品種は、主に豆腐用に使われるフクユタカで、大粒だが、しっかりと豆の味がして、なかなか美味だった

●校舎が改築されたばかりの平山小学校の調理室はガラス張り。日野市は全小中学校で自校方式の給食が提供されている

●今日の献立は、麦ご飯と納豆、けんちん汁、ちぐさ焼き、牛乳

●「おぉっ、ねばる!」「おいしい」と言いながら、みんな納豆を完食

●日野産納豆と大豆について、子どもたちに話をする小林さん。「おっちゃん」と呼ばれ親しまれる、農業の“先生”だ

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さかきだ みどり

1960年秋田県生まれ。東大仏文科卒。学生時代から農村現場を歩き、消費者団体勤務を経て90年よりフリージャーナリスト。農業・食・環境問題をテーマに、一般誌、農業誌などで執筆。農政ジャーナリストの会幹事。日本農業賞特別部門「食の架け橋賞」審査員。共著に『安ければそれでいいのか?!』(コモンズ)『雪印100株運動』(創森社)など。