提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


みどりの食べ歩き・出会い旅 【10】

2009年07月10日

奥出雲のちまきは、芸術品である!

         榊田 みどり


 端午の節句の行事食といえば、ちまき。私の生まれ育った秋田県では、餅米を蒸して三角錐の形に握り、それを笹の葉で包んだものだったが、このちまきも、日本各地それぞれに、その土地の風土や食文化のちがいを映し出すような個性を持っている。


芸術品のような奥出雲の笹巻き 先月、私の尊敬する島根県奥出雲地方の農業経営者の方が、宅急便でちまきを送ってくださった。「6月にちまき?」と思ったら、奥出雲では、端午の節句ではなく、半夏生(夏至から11日目)にちまきを作り、親しいひとに送る習わしがあるのだという。ちなみに、この地方のちまきは、正式には「笹巻き」と呼ぶそうだ。

 いただいたお手紙には、「今年で最後か今年で最後かと細々続けておりました。今年もどうにかこの世に生かされておりました」とあった。手作りの品を贈っていただく「親しいひと」の仲間入りをさせていただいて、とてもうれしかったが、その笹巻きを見て、びっくりした。


イグサの穂が、美しい飾りの役割を果たしている まずは写真を見ていただきたい。文句なしに美しいのである。細長い三角形に整えられ、縛りひもに使われているイグサの先には、飾りとしてイグサの穂がついている。まるで芸術品ではないか。秋田のちまきは、庶民的な郷土食のイメージが強いが、それとは全く趣がちがい、雅びな文化を感じさせる。
 調べてみると、地域や家庭によって、巻き方もいろいろあるそうで、いただいた笹巻きは「三味線巻き」というのだそうだ。


 いただいた笹巻きは、餅米とうるち米を混ぜ、粉に弾いてから団子にしたものだった。1串の笹巻きに使われている笹の葉は、なんと5枚。一番内側の1枚目には柔らかな新芽の葉を使い、さらに4枚の葉で外側を巻いてある。どれだけ手がかかっていることだろう。


 私が親しんできた故郷のちまきとは、あまりに勝手がちがうため、地元の方たちはどうやって食べているのか、やはりこの笹巻きを長年いただいているという知り合いに聞いてみた。「ゆでて砂糖醤油をつけて食べるのが一番おいしい」という。きなこと砂糖をまぶして食べることもあるらしいというから、どうやら食べ方は、秋田とも共通している。


一番内側の葉は、やわらかな新芽。笹を1枚ずつはがしていると、逆に1枚ずつ巻いた作り手の心まで伝わってくる気がする 中国から伝わったといわれるちまきだが、日本でも、すでに平安時代には食されていたという文献の記録がある。ベトナムやカンボジアなど東南アジアにも、中国のちまきをルーツにした食文化があるという。鹿児島県のあくまき、新潟県の餡入り笹だんごなども、もちろんルーツはちまきだ。


 中国から日本に伝来して以降、長い歴史の中で、ちまきは、各地に広がりながら、独自の郷土食として育まれてきた。ちまきの形ひとつにも、それぞれの地方に今も息づいている豊かな文化や、そこに住む人々のメンタリティまで現れているようで、奥出雲のちまきに、しばらく見惚れてしまった。


写真 上から順番に
●芸術品のような奥出雲の笹巻き
●イグサの穂が、美しい飾りの役割を果たしている
●一番内側の葉は、やわらかな新芽。笹を1枚ずつはがしていると、逆に1枚ずつ巻いた作り手の心まで伝わってくる気がする


(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

さかきだ みどり

1960年秋田県生まれ。東大仏文科卒。学生時代から農村現場を歩き、消費者団体勤務を経て90年よりフリージャーナリスト。農業・食・環境問題をテーマに、一般誌、農業誌などで執筆。農政ジャーナリストの会幹事。日本農業賞特別部門「食の架け橋賞」審査員。共著に『安ければそれでいいのか?!』(コモンズ)『雪印100株運動』(創森社)など。