提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


みどりの食べ歩き・出会い旅 【2】

2008年11月11日

大和野菜には、奈良漬がよく似合う

     榊田 みどり
 

 京都といえば「京野菜」、大阪といえば「なにわ野菜」。では、奈良といえば? そう、「大和野菜」がある。不覚にも、つい2か月前まで、私は「大和野菜」の存在を知らなかった。
 「大和野菜」は、戦前から奈良県で栽培されていた「大和の伝統野菜」と、栽培などに手間をかけた「大和のこだわり野菜」をPRしようと、2005年から奈良県が認定を始めた。08年5月段階で、21品目が認定されている。

 奈良には何度か足を運んでいるが、実は、私は意外に奈良に疎い。あの有名な東大寺の大仏様さえ、2か月前まで拝んだことがなかった。今年9月、ならコープの方々の勉強会にお邪魔した折に、同コープの元理事で、知人でもあるMさんが、「せっかくだから」と東大寺に連れて行ってくれたのが最初である。

長い大和三尺


 参道にぞろぞろと集まって、鹿せんべいをねだる鹿の集団に驚きながら歩いていると、みやげもの屋にまじって、こじんまりとした奈良漬屋さんが参道沿いにあった。実はこの店が、「大和野菜」のひとつ、「大和三尺きゅうり」の奈良漬を製造販売している、日本で唯一の店・森奈良漬店だ。

 明治2年創業の老舗で、砂糖やみりんを使わず、酒粕と天然塩だけで野菜を丹念に漬け込む昔ながらの技法が、多くの食通に愛されている。「うちは、漬物屋ではなく奈良漬屋」と、奈良漬にとても誇りを持っていらっしゃるとMさんから聞いた。

Mさんは、生協活動を通じて、地元農家の方と幅広い人脈を持っており、大和三尺の栽培農家とも知り合いで、実は前夜、その話をうかがっていたのだ。東大寺参拝のもうひとつのお目当ては、この奈良漬とのご対面だったのである。


 大和三尺きゅうりは、一般のきゅうりに比べて、ものすごく長い。“三尺”といえば、約90cm。これは大げさらしいが、実際、長いものは70cm以上になるという。戦前まで、漬物用として奈良県で広く栽培されていたらしいが、収穫量が少なく、なにしろ長いため生育中に曲がることが多く、育てにくい。長尺であることも、スーパー全盛時代になると物流に嫌われ、昭和40年代に生産が激減。以後、つい近年まで“まぼろしの野菜”となっていた。


 ところが、8年前、森奈良漬店の店主・森茂さんが、この大和三尺を復活しようと、県内農家に呼びかけて契約栽培に着手。戦前に親しまれた大和三尺の奈良漬が再び蘇ったというドラマのある伝統野菜なのである。

奈良漬

 ちなみに、なぜ酒粕漬を「奈良漬」と呼ぶのか、私にとって長年の謎だったが、奈良県では、平城京時代、すでに、どぶろくの下に沈殿するドロドロした液体に、塩漬野菜を漬け込んだものが珍重されていたらしい記録があるという。室町時代には清酒造りが始まり、清酒を濾すときに出る酒粕を使った漬物が、奈良名産となった。「奈良漬」が商品として売り出されたのは、江戸末期という。


 大和の伝統野菜を、伝統の味、奈良漬で味わえることにわくわくしながら購入し、自宅に帰ってさっそくいただいてみた。
 まずは切らずに長さを測ってみると、1本35cmあった。漬け込む前は、どれくらいだったのだろうか。食感は、コリっとしっかりした歯ざわり。繊維が緻密で、漬物用に愛用されていたのも、うなずける。「京の雅」とは一味違い、華やかではないけれど地に足のついた「大和の鄙び」の品格を感じさせる味だった。

写真
右上 :長い大和三尺  右が市販の生鮮きゅうり、左が大和三尺の奈良漬。季節がら、生鮮の大和三尺が見られなかったのは残念だが、漬物でも十分に長い!
左下 :奈良漬 砂糖を使っていないだけに、酒精の香りと素材の味が生きた上品な味わい。コリッ、サクッとした歯ざわりが、大和三尺の特徴。


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さかきだ みどり

1960年秋田県生まれ。東大仏文科卒。学生時代から農村現場を歩き、消費者団体勤務を経て90年よりフリージャーナリスト。農業・食・環境問題をテーマに、一般誌、農業誌などで執筆。農政ジャーナリストの会幹事。日本農業賞特別部門「食の架け橋賞」審査員。共著に『安ければそれでいいのか?!』(コモンズ)『雪印100株運動』(創森社)など。