提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【23】

2015年02月12日

狼のヘルメット――テントウムシ  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 「トマトが赤くなると医者が青くなる」
 西洋から伝わったとされるこのたとえは実によくできていて、分かりやすい。
 トマトが赤くなれば栄養成分の代表格であるリコピンの含量が増し、より健康的な食材となる。それを食べればゲンキ、元気。お医者さまの世話にならなくても済みますよー、といったメッセージが容易に伝わる。
 そのトマトの学名にある「リコペルシコン」が「狼の桃」を意味することも、よく知られるようになった。羊と狼のおはなしでは悪役となる狼だが、こと野菜に関してはパワフルの象徴になるのだから、狼冥利(?)に尽きるというものだ。


tanimoto23_14.jpg ところが、世の中は広い。これを虫の世界に当てはめると、テントウムシが狼となる。虫嫌いの人にさえ一目置かれる愛されキャラながら、テントウムシの実体は「羊の皮をかぶった狼」そのものだ。つるつるピカピカのヘルメットをかぶった「狼虫」とでも呼びたくなる。
右 :国内最大級のカメノコテントウ。体長1cm程度だが、ほかの種に比べるとその巨大さにびっくりする


 「えー、なんで、なんで? あんなにかわいい虫なのに」
 弁護を買って出る女性がすぐさま現れるあたりは、テントウムシの徳というべきか。
 だが、それはそれ。多くのテントウムシが肉食であることは疑いの余地がない。

 トマトを栽培すると、アブラムシが寄ってくる。彼女たちはとにもかくにも、出産こそが自分たちに課せられた使命であるかのごとく増殖に精を出す。トマトが株全体にたくわえた汁をブチューッと吸って、子虫をポロリ、吸ってはポロン。ねずみ算など何するものぞといった勢いで増えに増え、すこしでも甘い顔を見せると、ハウス内のトマトというトマトから甘い汁を搾り取っていく。


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左 :色づき始めたわが家のミニトマト。年によっては、アブラムシの空中庭園のようになる
右 :アブラムシを食べようとするナナホシテントウ


 「おお、これこそリコピンの力なり!」
 とアブラムシが言うわけもないしリコピンの効力でもないだろうが、繁殖力のすごさは多くの農家が認めるところだ。
 そこにさっそうと登場するのが、テントウムシである。人工的に飛べなくしたものや遺伝的に飛べない因子を持ったものがハウス内に放たれると、さすがのアブラムシもたじたじとなる。

 テントウムシがまぎれもなく虫世界の狼であることを認識するのは、その食欲を知ったときだろう。個体差はあるが、幼虫時代に500~600匹、成虫になってからも100匹はアブラムシを食べてくれるというから驚くばかりである。


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左 :アブラムシ退治ならテントウムシの幼虫が一番だ。食べる食べる、よく食べる
右 :テントウムシの食欲はすさまじい。とても肉食系昆虫には見えないのだが......


 ところがつい最近、びっくりするような話を聞いた。
 「わしゃー、もう50年も農業をしとるが、テントウムシがアブラムシを食うなんてことは、初めて知ったぞい」
 れれれ......。と二の句がつげなくなった。

 最近は、天敵農法ということばもよく耳にする。コナジラミ類が寄生バチにやられる話や、ダニを食べるダニ、アザミウマ類を食するカメムシの仲間などの活躍がニュースになる。施設園芸の天敵商品が登場して20年にもなるというのに、このベテラン農家はテントウムシの自然界での役割をご存じなかったのである。


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左 :テントウムシの赤ちゃん誕生。楽しそうに踊りながら、卵から抜け出そうとしている
右 :よく転ぶから転倒虫だなんて言うと、イマドキの子どもに笑われる。でも、おなか側から見ると、新鮮な驚きがある


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左 :ヒメアカホシテントウ。ナミテントウにも似たような斑紋があるが、こちらは体長4ミリ程度と小さい
右 :正面から見たテントウムシのさなぎは、子豚のように愛らしい


 やや冷静になって考え、そのうち、無理もないと思えてきた。
 なぜなら、ほんのしばらく前まで、化学農薬を使うからにはそのあとに動くものがいてはいけなかったからである。そこには害虫も益虫の区別もない。いくら害虫退治に役立つ虫であっても、いちいち区別する手間をかけられないし、かけたくなかったからであろう。

 文字通り汗水たらして働いて得たお金で高価な化学農薬を買うのだから、虫さんにはきれいさっぱり☆になってほしい、そんな気持ちも分からないわけではない。
 もっと広い目でみれば、テントウムシもいろいろだ。植物の病原菌をえさにするものがいれば、アブラムシよりもっと厄介なカイガラムシを好む種もいる。農家にとってはありがたくない食植性、つまり作物の葉っぱを食べる種だっている。


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左 :これらイセリアカイガラムシをやっつけるために日本へ持ち込まれたのがベダリアテントウだが、最近はあまり見かけない
右 :キイロテントウは、うどんこ病菌を食べてくれる変わり者だ


 ぼくは言った。
 「これからは、テントウムシを見たら大切にしてやってください。でもね、なかには悪いテントウムシもいるから気をつけてくださいよ」
 これがいけなかった。

 「ほうじゃろう。ナスの葉っぱをかじるテントウムシがおる。やっぱりテントウムシは信用ならん」
 オオニジュウヤホシテントウやニジュウヤホシテントウなどの俗にいう「テントウムシダマシ」はご存じみたいだ。彼らこそ、害虫扱いされているタチの悪い種である。


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左 :俗に「テンテウムシダマシ」と呼ばれるオオニジュウヤホシテントウ。ベジタリアンだから、人間には嫌われる
右 :トホシテントウも、カラスウリの葉などを食べる食植性のテントウムシだ


 それでもやっぱり、テントウムシは農業の味方だ。
 これまた最近知ったことだが、ナナホシテントウは、レンゲの葉をむさぼり食うアルファルファタコゾウムシの幼虫までも食べている。テントウムシはやっぱり、良いことをなさっている。


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左 :レンゲ畑の大敵・アルファルファタコゾウムシの幼虫。テントウムシがこれまで退治してくれるらしい
右 :テントウムシの主な仕事はアブラムシ退治だが、それ以外の害虫駆除にも役立っている


 だったらというので、そこらじゅうのテントウムシを集めて害虫退治をやらせよう、それならタダだし......。
 なんて考える人がいても、おかしくない。

 だが、どこにでも落とし穴はあるものだ。それまでテントウムシに関心がなかった人が集めた中には、テントウムシではないものも混じっている。イタドリハムシ、マルウンカは言うに及ばず、ニセクロホシゴミムシダマシなどというテントウムシばかりかゴミムシさえもだましていそうな名前の虫もいる。

 かと思えば、コクロヒメテントウの幼虫はカイガラムシと間違えられて駆逐される。いやはや、一口にテントウムシといっても、なかなか面倒な識別眼が求められるものである。


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左 :それほど丸くないイタドリハムシだが、背中の模様はやっぱり、テントウムシ・ファッションだ
右 :悪役が似合いそうなコクロヒメテントウの幼虫。気の毒だが、どう見てもカイガラムシだ

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。