提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【21】

2014年12月15日

土の中のお菓子の家――冬越し甲虫  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 子どものころ、だれもが一度はあこがれるのが「お菓子の家」ではないだろうか。本で知ったヘンゼルとグレーテルがうらやましくて、あんな家に住んでみたいと思ったものだ。もちろん、魔女抜きに願いたいという条件付きで。
 なにしろ、食うに困らない。雨風はもちろんしのげる。住む部屋があって、しかも子どもが好きな甘い食べ物がどっさりあるのだから、うらやましく思わない方がおかしい。

 あるとき、それと同じものが自然界にあることに気がついた。虫の世界では、お菓子の家も決して夢物語ではない。たとえばカブトムシの幼虫のすみかがそうである。


tanimoto21_0.jpg 子どもたちの人気者にして、「森の王者」の異名をとる甲冑(かっちゅう)の戦士。その幼虫は畑の片隅に積み上げられた堆肥や腐りかけの樹木にもぐり込んでぬくぬく暮らし、しかも食べ物に困らない生活をエンジョイしている。
 ふれるものすべてが食べ物なのだ。もりもり食べて、栄養にならないものは糞として外に出す。
 といっても噴出ならぬ、糞出しである。人間サマが目にするのは、俵型の粒つぶだ。

 「土壌改良のための堆肥なんだぞ。それをオメーら食い散らかしやがって、どーしてくれんだよ!」
 などとフン慨しても、仕方がない。
 見た目はたしかに、大事な堆肥置き場を荒らす悪者だ。おまけに糞までひりだして......。しかしまあまあ、気をしずめて。
 俵型の糞は、ケッコーな肥料になる。鶏糞と比べたことはないが、ポットやプランターで育てた野菜や草花に栄養を与えるくらいの価値はある。ぼくのようなミニ実験ではなく、カブトムシの幼虫の糞をわざわざかき集め、自分の畑に入れる農家もいるほどだ。
 とくれば見方も変わろう。味方にもなろうというものだ。


tanimoto21_2.jpg つい最近、散歩道の途中で、立ち枯れの木を見つけた。幹の途中でぽっきりと折れ、それが腐って株の名残がある程度の朽ちようだ。
 「しめしめ、もしかして......」
 ぼくは近くに転がっていた手ごろな枝を拾うと、木屑のたまり場になっているようなところをごそごそとかき回した。すると、いたのである。コガネムシの幼虫とおぼしき虫が――。
 できればカブトムシの方がうれしい。だが、この寒空の下で写真撮影のモデルになってくれる虫がいるだけでも、感謝せねばなるまい。
右 :コガネムシの幼虫 。カブトムシの幼虫を見なければ、これでも十分なヒットである


tanimoto21_1.jpg 数カットを撮り、元に戻した。そして、ほかにはなんぞおらんかいな、とかき出し作業を続行した。
 半透明の体が見えた。先ほどのコガネムシの幼虫に空気を吹き込んだような感じだ。
 「やったぞ!」と小さく叫び、本格的な探索作業にとりかかる。
 すると、出てくる出てくる。カブトムシの幼虫が何匹も隠れていたのだ。プリプリしていて、これまでに飼った中で最大クラスのプリちゃんが入れ食い状態で姿を現した。17匹まで数えて、やめた。夏になってどれだけの大物が這いだしてくるのか、楽しみに待つばかりである。
左 :プリプリした体のカブトムシ幼虫。こんなのがまさに、ごろんごろん状態。宝くじに当たったような気分になる


 幸先の良いスタートが切れたせいか、今シーズンの越冬ムシ探しは好調だ。一部の虫好きは、やれクワガタムシだ、やれオサムシだとコーフンしながらバールのような木割り道具で腐った木をひっくり返すが、ぼくはそこまで熱心でない。いい感じで腐って転がっている倒木を見たら、足でごろんと裏返すくらいのものだ。
 それでも今季は、カブトムシにもらった幸運が体のどこかに張り付いている。どの木を見ても、なにがしかの収穫がある。

 クワガタムシの成虫がすぐに見つかった。次に、ハサミムシ。ダンゴムシ、ワラジムシは言うに及ばぬ。
 シロアリ、ムカデ、ヤスデ、キセルガイ、ミミズ、ゴミムシ、ゲジ、ナメクジの卵......。ぼくもわたしも撮影モデルにしてほしいと言わんばかりに、次から次へと顔を出す。


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左 :「クワガタさん、起こしてごめんね」。だって、なんだか眠そうなんだモン
右 :「やっぱり外見って、大切?」。ハサミムシ自身、実は悩んでいるかもしれないのだ


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左 :おなじみのダンゴムシ。集団でグーグーグー。かと思って油断すると、いつの間にやら、どこぞへ消えている
右 :ヤマトシロアリ。「森の掃除屋」として働くが、なにかと誤解されやすい損な役回りを演じている


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左 :煙管に似た形だから、キセルガイ。この命名はヒットだろう。一か所で何匹も見つかることが多い
右 :ナメクジの卵。どう見てもゼリーだよなあ


 こうした顔ぶれを見ながら頭に浮かんだのは「2015年は国際土壌年らしいなあ」という、珍しくまっとうなことであった。作物を育てるためには土が要る。水や光ももちろん重要だが、畑がないと始まらない。

 そこで活躍するのがムシたちだ。ミミズのように耕運機さながらの働きをして感謝されるものがいれば、本当は森の掃除屋として地道な作業をしているのに、家の土台を食い荒らすイメージしか持たれないシロアリのようなものもいる。
 ムカデ、ヤスデに至っては、「見つけ次第に抹殺セヨ」という、あるのかないのか分からない天の声を聞き取る人がいる。ゴミムシなんぞは、何の役にも立たんゴクツブシ同然の見方しかされていない。


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左 :ムカデ。人間にかみついたりするから嫌われるが、おとなしくしていれば案外イケメン風
右 :ヤスデ。あしの数ではムカデにだって負けていない


 しかし、それらはまさしく食わず嫌いに等しい。だからといって、最近はやりのムシ食いを勧めるわけではない。彼らの人間社会への貢献に、少しぐらい目を向けてやってもいいんじゃあーりませんか、と言いたいのである。

 とりわけ注目したいのはゴミムシだ。見かけはたしかに、よろしくない。同じ甲虫仲間なのに、カブトムシ、クワガタムシ、コガネムシ、ハナムグリなどと比べれば小柄で、アピール度が低い。それになにより、「盗人のごとく、こそこそと逃げ回る根性が気にくわぬ」と言う人もいる。見てくれも行動も、どことなく怪しいようにみられる不遇の虫だ。

tanimoto21_10.jpg ホントのところはどうか。大方の意に反して、地味ながら意外な働きをしているいいやつなのだ。
 農家の本当の敵である芋虫、毛虫を襲って退治するかと思えば、休まず働くアリのように、雑草のタネを食べてくれる種類もいる。研究は始まったばかりだが、ちゃんとした研究機関がその働きぶりを証明しようと頑張っている。日本ばかりかアメリカでも、ゴミムシやナメクジが雑草のタネを食べているというリポートが出されているのだ。
右 :日本に生息するゴミムシは約1000種。肉食性がいれば、種子食性、雑食性のものもいる。農業への貢献度は意外に高いようである


 害虫をやっつけ、草とり役まで引き受けてくれるとなれば、もはや益虫ではないか。参考までにいうと雑草のタネは、埋没したものよりも地表面にある方をより好むようである。

 サソリと勘違いする人もいるように悪役タイプのハサミムシも、ハスモンヨトウやタマナギンウワバといった蛾の幼虫をえさにしている。かみついたり、はさんだりして1匹が毎日5匹退治していたというレタス畑からの報告もある。しかも金魚のえさやかつお節で人工的に飼うことも可能らしい。そうであれば、どんどん殖やして、畑に向かわせたい。


 だがしかし、ここでちょいと考えたいのは、はたしてそれでいいのかなあ、ということだ。
 悪い考えではない。けれども、できるなら人間が手を出すのではなく、自然の力でそうなるのが一番ではないか。

 うーん。ちと難しいが、隠れ家になる植物を植えたり、影響の少ない農薬に変えるなどして、彼らがすみやすい環境にするのが人間のホントの知恵かもしれないなあ。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。