提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【13】

2014年04月11日

ぐにゃぐにゃの堅物――タニシ  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 7年ほど前から、メダカを飼っている。最近はキタノメダカ、ミナミメダカという2種に分類されるようになった、日本在来のクロメダカではない。いわゆる、色メダカだ。少しだけ分けてもらったものがなんとか子孫を維持し、現在に至っている。


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左 :わが家のメダカ。人工繁殖した色メダカだ
右 :池で泳ぐ野生のクロメダカ。最近は、キタノメダカとミナミメダカに分類されている 


 そのなかには「ダルマメダカ」と俗称される寸詰まり型のものもいる。ぼくが中学生のころだから半世紀ほど前になるが、その時分には脊椎の数自体が少ない「縮みメダカ」の名前で紹介され、研究所でしか見られない憧れのメダカだった。それと同類のメダカがどうやってこれほど殖えたのか知らないが、いまではごく普通に流通している。寸詰まりだけでなく、ひれや体の一部が光るもの、目玉が黒いものがいれば、体色が白、青、だいだい色、ひし形の尾びれを持つものなどもいて、実に多彩だ。全国的に統一された品種名ではなく、業者やブリーダーがそれぞれ勝手に名前を付けて売っている。


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左 :メダカは目高。目の位置が高い。水槽の前に立つと、えさを求めて寄ってくる
右 :メダカの赤ちゃん。どんな生きものも生まれたてはかわいらしい


 ともあれ、どんなメダカにしても、飼育で難しいのは夏越しだろう。暑さ・寒さに強く、淡水ばかりか海水でも生きているメダカだが、水温40度を超すとさすがに平気ではいられない。それでぼくは、かわいそうなことに何度か死なせてしまった。それでもまだ飼っていられるのは、リスク分散のつもりで置き場所を複数にしているからだ。


 だがしかし、ここで話題にしたいのは、実を言うとメダカではない。メダカの同居人でもあるタニシだ。「水槽の掃除人」としてつとに有名で、「スイレン池の藻の掃除用にトラップドア・スネイルが欲しい。大至急、送れ」などという手紙がアメリカはカリフォルニア州の園芸会社から届いたという1970年代のエピソードも残されている。


 文面を見た当時の日本人は思わず、首をひねったという。英語は理解できたが、「ハテ、ナンノコトカ?」。それもそのはず、トラップドア(はね上げ戸)を持つ巻き貝といわれても、すぐには想像できなかったからである。


 タニシは「田んぼのサザエ」の異称を持つ。なぜと思うなら、なによりも実物を見ることだ。サザエほど頑丈ではないまでも、どう見てもふたとしか言えないものがタニシの殻の入り口に付いている。タニシが大活躍し、最後には人間になる「タニシ長者」のむかし話を知る日本人は多いが、それに反比例するかのように、身近でタニシを見られる人は激減している。


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左 :殻の前面にあるふたを開けて頭を出したタニシ。はね上げ戸に見立てた外国人の直感になるほど?
右 :なんてことのない田んぼのタニシだが、最近は見る機会が減っている


 オオタニシ、マルタニシ、ヒメタニシあたりが田んぼの主なタニシなのだが、環境省のレッドデータリストで準絶滅危惧種に入るものもあるほど急激に減っているという。必要な時期を除くと乾燥しがちな田んぼが増えただけでなく、タニシそのものへの関心が薄れたことが減少に拍車をかけているように思えてならない。

 大粒系のタニシは減ったが、小さいヒメタニシはまだ、水槽の掃除人としての頑張りを見せている。道の駅や農産物直売所の一角でメダカを商うようなところなら、水草と一緒にヒメタニシが顔を出す。小さくても水質浄化には役立つというわけだ。 


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左 :魚を飼う人たちがよく水槽に入れるヒメタニシ
右 :タニシのくち。これでガラス面の藻などを削って食べる。触角の根元に見える目もかわいい


 かつてのアメリカの園芸会社にせよ現代の飼育魚マニアにせよ、タニシの力に期待する声は大きい。とくれば、その底力がどれほどのものか確かめたくなるのが人情であろう。

 そこで藻が繁殖しすぎで濃い緑色になった水槽に手持ちの比較的大きなタニシを放し、ようすをみたことがある。その結果は、驚くばかりだった。水槽に入れる数にもよるが、一晩そのままにすれば、見事に澄んだ水にしてくれる。

 ハマグリやアサリで見たことはあろうが、貝類には入水管と出水管がある。その管を駆使して海水を吸い込み、不要物を外部に吐き出す。その繰り返しで、海水を浄化していくのだ。巻き貝であるタニシにも、同じように2種類の管がある。そして底に沈んだえさもいとわずに処理するため、「水槽の掃除人」としての職がまっとうできるのだろう。いやはや、あっぱれである。これだけの働き者なら、いずれ長者になっても不思議はない。


 このごろの子どもたちは、タニシさえそれだと分からない。それどころか外来種であるスクミリンゴガイやラプラタリンゴガイのように、卵を産んで殖えるのがタニシだと思っているフシがある。とんでもない誤解だ。タニシは、卵胎生の生きものである。いまの季節はミニサイズの子タニシを見ることもできる。捕ってきたタニシがメスなら、知らない間に子を産むはずだ。


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左 :左がタニシ。右は「ジャンボタニシ」の呼び名が定着したスクミリンゴガイ。よく似ている
右 :きれいに洗ったタニシ。昔はぬたや田楽にして食べていた


 茨城県の霞ケ浦は、コイやザリガニなどとともに、タニシ漁もする土地柄だった。近年はその伝統もすたれたと聞くが、うれしいことにタニシ人形が残った。昭和の初めごろの創作として世に出たらしいが、細々ながら現代にまで伝わり、販売もされている。土浦市恒例のひな祭りでは、タニシでできたひな飾りも披露される。


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左 :タニシの殻で作った人形。茨城らしく、モデルは黄門さまだ
右 :整列したタニシの殻。並べてみると、なかなかに味わい深い


 そうした工芸品にも興味があるぼくはそれに触発されて、「ヨーシ、ツクッテヤルゾ!」という気になった。水槽を掃除すると、タニシのなきがらも幾つか見つかった。それを洗って、乾かした。あとは目鼻を付けたり彩色するばかりである。

 ところがそのうちに、別のものに関心が移り、わがオリジナルのタニシ人形はまだ完成していない。同じように、タニシの話も突然、ここで終える。実はこれが、もっとも得意な技でもあるのだ。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。