提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【10】

2014年01月14日

見かけはヘンでも立派な昆虫――カイガラムシ  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 冬の間は、田畑の虫もさすがに少なくなる。
 いや、卵やさなぎになって越冬中のものが多いから、正しくは、目につきにくくなる、とすべきだろう。

 それでも何かを見つけようと出かけるのが、ムシ好きだ。枯れ木を見つけてはうしししと顔をほころばせ、腐りかけた部分を崩しにかかる。オサムシやクワガタの幼虫でも出てくれば、たとえ普通種とされるものであっても豊かな気分に浸れるからだ。

 だがぼくは、そうした労力もかけない。歩きながらあちこちに目を配り、「運が良ければ何か見つかるさ」ぐらいにしか考えていない。それをユキアタリ・バッタリ方式と呼ぶ。そして、ほとんど偶然に見つかったものに価値を見いだし、ささやかな発見を喜ぶ。


tanimoto10_0.jpg たとえばつい最近は、ゴミムシがジョロウグモを引いていく場面に出くわした。彼らとて何かを食して生きていることは確かなのだが、自分のからだよりも大きなえさを調達するところは、なかなか見られるものではない。
 となれば、これはきわめてラッキーな出会いである。(うれしー!)とぼくは心の中で叫び、せめてもの記録にとカメラのシャッターを幾度か押した。
左 :ジョロウグモを引っ張るゴミムシ。寒さをものともせず(かどうかは分からないが)、懸命に働いていた


 そのほかには、「宙に浮かぶ緑の宝石」とでも呼びたいウスタビガの繭や枯れ枝そっくりのホソミオツネントンボに遭遇し、同じように記念撮影をした。
 そして、もうひとつだけ付け加えたいのが、カイガラムシを見つけたことだ。農家の人にとっては害虫でしかない、あの面白みのない物体である。


tanimoto10_3.jpg あるとき、カイガラムシを漢字で書くとどうなるのだろうと思った。貝殻のように硬いのが普通だから、「貝殻虫」でいいのだろうか。念のために調べたら、「介殻虫」が正解だった。「介」は甲羅のある生き物やよろいを表す文字らしい。

 一般にイメージされる(とぼくが思っている)ような「貝殻虫」ではない漢字表記があると知っただけでも驚きなのに、カイガラムシにはそれどころではない、未知の事実がいくつもあった。そもそも、貝殻のように硬いものだと思うのが誤りで、殻を持つカイガラムシと持たないカイガラムシがあるのだった。
右 :カイガラムシのイメージにぴったりのツノロウムシ。よく見ると、小さな突起がある。これが名前につながる「角」なのだろう


 そのうえ、じっとして動かないのが当たり前だと思っていたのも不正解であり、幼虫時代には移動もするという。外見はともかく、ダンゴムシやフナムシのように「ムシ」と付いても昆虫ではないものがいるが、カイガラムシはああ見えても立派な昆虫なのである。


tanimoto10_4.jpg こうなると、小心者のぼくは、「へへへー」とひれ伏すしかない。カイガラムシにはいくつもタイプがあるため一概には言えないものの、からだは頭・胸・腹の3つに分かれるし、あしも3対ある。雌雄の区別もちゃんとしていて、卵だって産む。雄にはさなぎのような時期もあるが、だからといって完全変態の昆虫とはみなされず、不完全変態との中間的な存在だとみられている。
左 :ツノロウムシをひっくり返すと、意外にも鮮やかな色を見せた。あしの痕のようなものもあり、いくらか昆虫らしく見える


 日本で知られるのは約800種。セミやカメムシ、アブラムシ、ウンカの親せき筋に当たるカメムシ目カイガラムシ上科に分類される。
 雌に限れば、じっとして動かないものが主流らしい。言い換えると、ぼくら素人が目にするカイガラムシのほとんどは雌なのである。そうだと分かれば、なんとなくほっとする。


 では、雄はどうなのか。雌をほったからして、どこぞをほっつき歩いているのだろうか。
 これにもちゃんと答えは用意されていて、雄と雌はいつか出会って、昆虫らしい繁殖をするのである。雌は動けなくても、性フェロモンをプンプンさせて雄を誘う能力を授かっている。めでたし、めでたしである。
 ――とも言い切れないのがカイガラムシらしいところで、雌だけで殖えるものもいるという。いやはや、まさに侮れぬ奇妙奇天烈な昆虫サマなのだ。


tanimoto10_5.jpg  tanimoto10_6.jpg
左 :脱皮中のオオワラジカイガラムシの幼虫。こんなカイガラムシもいるのだ
右 :ヒモワタカイガラムシ。多様性に富むカイガラムシの形態のひとつである


 だがしかし、このようなことは知っていても知らなくてもいい。農業の敵であることは、まちがいないからだ。かんきつ類に始まり、ナシ、ブドウ、リンゴ、庭木、街路樹、ダイズ、ナス、キュウリ......と、被害に遭っている植物はいくらでも挙げることができる。まさにアブラムシ、カメムシの同類らしい、植物の汁チューチュー吸い作戦を展開する昆虫である事実は隠しようがない。

tanimoto10_7.jpg「だったら、一刻も早く、駆除するに限る!」
 鼻の穴をおっぴろげて、こう息巻く御仁もおられよう。しかし、カイガラムシの一族は種類が多いこともあって、人知れず役にも立っている。実を言うと、ぼくが数年来探し求めているのは、そうした有用カイガラムシの一種、イボタロウムシなのである。イボタガという蛾の幼虫の食樹にもなっているイボタの木につく。
右 :タマカタカイガラムシ(茶色の丸いもの)と、天敵として働くアカホシテントウのさなぎ(枝の下側にあるトゲが生えたような紡錘形のもの)


 このカイガラムシは高級化粧品やワックス、すすの出ない会津ろうそくの原料として珍重されてきた。障子やふすまの戸滑りにも使われる。天然の素材に興味を持ちだしてから、いつかは自分の目で野生のものを見つけだしたいと努めているのだが、なにしろ、根っからのものぐさ体質が邪魔をしていまだかなわぬ。それでも諦めだけは悪いタチなので、これからも探し続けることはまちがいない。


tanimoto10_2.jpg カイガラムシが利用されているというと不思議に思われるかもしれないが、意外にも身近な存在であることもまた事実だ。ぼくらの若いころには当たり前に見られたレコード盤には、外国のラックカイガラムシから作ったシェラックが使われていた。そのほかにもカーワックス、マニキュア、粘着テープ、チューインガム、食品の着色料などにも原料として使われている。
 こうなったら逆に、感謝しなければならない。「カイガラムシさん、ありがとう!」と。

 だが、だれもがそうした気持ちになれるわけでもなく、防ぐためには卵からかえって間もない幼虫をたたくのが一番だとか。そのためには、けったい極まるカイガラムシの実体を知ることがまず必要なのである。
左 :イセリアカイガラムシ。幾筋も見えるひものようなものは卵のうだ

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。