提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【7】

2013年10月09日

臭いのも芸のうち?――カメムシ  

プチ生物研究家 谷本雄治   

 
 へえ、そんな人もいるんだあ。
 まさに意外な発見だった。彼女はこう言ったのだ。
「わたしの目の前にいるとして、それがカメムシだと、どうしたら分かるんですか?」


 カメムシの俗称は多い。ヘコキムシ、クサムシ、ヘッピリムシ......。所変われば品変わるといわれるように、地域や年代によって、さまざまな呼び名を与えている。柳田國男の『蝸牛考』にみるカタツムリ、辛川十歩の『メダカの方言』に示されるような膨大な数にはならないまでも、ほとんどの日本人に「臭い虫」として認識されていると思っていた。


tanimoto7_1.jpg ぼくにとってのその"常識"が覆されたのである。しかし数秒ののち、わがニューロンが鈍いながら働き始めた。そして、ハッとした。
 農業界では斑点米カメムシとか果樹カメムシとか呼んで、カメムシを目の敵にする。クサギカメムシやツヤアオカメムシは、わが家にさえ平気でやってくる。だがカメムシは予想以上に多様性に富む昆虫で、ひとことで説くのは難しいと気づいたのだ。
わが家の常連、クサギカメムシ


 プチ研究のつもりでホシハラビロヘリカメムシを捕まえてにおいを嗅ぎ、数匹を同じ容器に入れてどうなるかをみたことがある。一部ではダイズの害虫ともなっている顔なじみのカメムシだ。
tanimoto7_2.jpg こいつは、文句なしに臭かった。その天然ガスで、彼らにとってのおじゃま虫であるぼくを容赦なく攻撃する。この虫を見せてにおいを嗅いでもらえば、カメムシ知らずの人にも理解してもらえるにちがいないと思ったものだ。そして同じ場所に閉じ込める実験の結果、自分たちの発した毒ガスで互いを死に追いやることも確かめた。
右 :いろんな実験に付き合ってくれたホシハラビロヘリカメムシ


 ところが同種の別の個体で同じことをしてみたら、そうならないこともある。手で押しつぶすようにしてもこづいても、まったく臭くないこともあった。
「ヘッピリムシ」などと呼ぶが、カメムシがおしりから悪臭を出すことはない。成虫はあしのつけ根、幼虫は背中にある孔から、アルデヒドの一種を出すのだ。そのにおいタンクが空っぽになったときなら、臭くないのかなあ、なんて思えてくる。

 体験からいうと、カメムシなら必ず臭いとはいいきれない。それどころか、芳香と受け止める人たちもいる。カメムシ香水まで存在するというから、悪臭に困っている人たちからすれば、オドロキ桃の木サンショの木であろう。


tanimoto7_4.jpg カメムシをひとことで伝えるのが難しい要因はその形状にもある。多くの日本人がカメムシは平べったくて、五角形・六角形などの角張った虫であると思っているフシがある。しかしそれはまったくといいほど誤りで、これまたオドロキのデザインで満たされている。
左 :こればかりはいつも臭いマルカメムシ

 マルカメムシ(こいつだけは、いつ嗅いでも臭い!)はその名の通り、丸っこい。ナガカメムシの仲間は細長い。イトカメムシ類に至っては、まさに糸のごとく細い体を売り物にしている。

 身近なところでよく見かけるものにアカスジキンカメムシという種がいるが、これはドーム型とでも名づけたくなる形状だ。そして色彩的にも優れている。カメムシ侮るべからずの3つ目の要素として挙げたいのは、こうした色彩の多様性だ。初めて見た人が「えええ、これってカメムシなの?!」と感嘆キョーキの声を発するのは、こうした美形の種を目にしたときである。
 実際に見たものでいえば、ナナホシキンカメムシ、アカスジカメムシ、キバラヘリカメムシあたりがぼくの好みだ。さらに付け加えると、農家の人たちには申し訳ないが、カメムシ好きの昆虫ファンは案外多いのである。


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左 :カメムシらしくないアカスジキンカメムシの成虫
右 :ナナホシキンカメムシ。死ぬと色が抜けてしまう


 その代わり、農業に役立つカメムシもまた多い。すでにいくつかが害虫対策で活躍していることは、ご存じの通りだ。タバコカスミカメ、クロヒョウタンカスミカメ、オオメカメムシなどが有名どころであろう。
 とはいえ、体が小さい。だからルーペのような補助具がないと、圃場内のどこにいるのか、どれだけ働いているのかが分かりにくいが、そんなことはない。コナジラミ類やアザミウマ類をちゃ~んと退治してくれている。


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左 :タバコカスミカメのこの色合いも捨てがたい魅力だ
右 :一見するとアリみたいなクロヒョウタンカスミカメ


 これらのカメムシは、植物の汁ではなく生きた虫を捕食する。だが、いかんせん、自分も相手も小さすぎる。それに対しサシガメ類はもっと大きな芋虫などを捕食する肉食系のカメムシだ。

 残念なことに、大きいことが必ずしもいいこととはいえず、人為的に管理して圃場に放すのはけっこう難しい。自分の体よりも大きな毛虫やゴキブリを、自前のぶっとい針状の口で突き刺している場面に遭遇することはあるが、それを見て頼もしいとみるか、オソロシイとみるかは観察者の立場によって異なる。


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左 :ゴキブリを捕まえたヨコヅナサシガメの幼虫
右 :外来種のニューフェース、マツヘリカメムシ。大胆にも、わが家にやってきた


 カメムシの話をするからには、どうしてもふれておきたいのがヨコヅナサシガメ、マツヘリカメムシといった外来種だ。とくにこれからの季節は、ヨコヅナサシガメの集団を目にする機会が増す。幼虫が樹の幹に集まって寒さに耐えようとする姿はいじらしくも見えるが、外国からの侵入生物が増えれば、在来種への影響は否めない。人間が嫌う害虫をやっつけるところを何度も目撃しているが、増え過ぎるのは、ちとオソロシイ。
 それでも意外に美しい。美麗種だ。それがこのごろの悩みでもある。 

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。