提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業に気象情報を活用しよう(6)

2013年08月20日

台風による暴風・強風、大雨への利活用

                             (株)ウェザーニューズ 梅田 治

▼前回の『農業に気象情報を活用しよう(5)』はこちら


1.台風の襲来
 初夏から秋にかけて、農家を悩ます気象現象の代表的なものに「台風」がある。主に日本の南海上で発生する台風は、日本付近に北上する場合に、上空の偏西風に乗って日本に接近しやすく、また、襲来の時期が農作物の生長期、収穫期に重なることが多く、最も警戒される気象現象といって過言ではない。


 台風は「台風の目」と呼ばれる中心のごく狭い範囲を除き、周辺部では雨・風ともに非常に強いことがよく知られている。特に東~南東側で顕著で、田畑の東側を通るか、西側を通るか、農家にとっては台風の進路が常に気になる点である。

 通常、夏の間は太平洋高気圧の勢力が強く、その縁辺を回る形で、日本には近づきにくいが、9月頃になると、徐々に勢力が弱まるため、日本に接近・上陸する確率が増してくる。図1は、月別の日本への接近台風の個数を示したものである。7月~10月、特に8月と9月が圧倒的に多く、稲作農家にとっては収穫(稲刈り)の時期と重なる場合も多い。

 また、梅雨時期から夏にかけて襲来する台風もあなどれない。この時期は、日本上空の偏西風がそれほど強くないこともあり、台風が日本に接近した場合、速度が遅いことが多く、迷走台風となって長く日本付近に居座り、影響が長引きやすい。また、その時期は日本付近の海面水温が高く、台風の勢力がなかなか衰えないのも特徴である。


 2011年は日本にいくつかの台風が接近・上陸したが、記憶に新しい2つの台風について紹介する。

 表1は、高知県東部に上陸した台風12号に関する報告である。台風12号は、8月25日にマリアナ諸島近海で発生し、28~29度と海水温が高い海域を進行し、あまり勢力が衰えないまま北上。優勢な高気圧の縁辺を回り込むように進んだが、進路を抑えられたこともあり、日本付近では時速10kmを下回るような、非常にゆっくりとした速度となった。これが、長時間にわたって関東~四国にかけて強い雨をもたらす要因となり、各地の農作物に被害が相次いだ。


umeda_kisyo6_zu1.jpg
図1 台風の統計値(1981年~2010年)


表1 2011年台風12号の進行経路と総降水量分布
umeda_kisyo6_hyo1.jpg


 表2は、静岡県西部に上陸した台風15号の報告である。台風12号と同様に、太平洋高気圧の縁辺を回るように進んだが、高気圧が東へ後退するとともに、進路を東に転向。高い海面水温の海域で水蒸気供給を受け、発達したまま本州に接近、上陸した。主な特徴は、愛知県〜岐阜県にかけての東海地方に豪雨を、台風が接近・通過した静岡県〜関東や東北地方にかけて暴風をもたらしたことなどである。


表2 2011年台風15号発生~衰退まで
umeda_kisyo6_hyo2.jpg


 特に台風の中心付近での強い風は顕著で、台風が上陸した浜松市では最大瞬間風速36.8m/s、御前崎では45.1m/sを記録、上陸後もあまり勢力を弱めることなく進行し、東京都八王子市でも最大瞬間風速43.1m/sを記録するなど、東日本のここ数年の台風の中では「風台風」のイメージを強く残した。


2.台風による作物や施設への影響
 台風が襲来した場合、暴風・強風によって、収穫の時期を迎えた作物に果実や野菜の落果、稲の倒伏などの損傷を与えることが多い。また、被害が栽培施設にも及び、ハウスのビニール破損や、風の程度によってハウスの倒壊などをおこすこともある。


 表3は、「ウェザーリポート」(サポーターからの投稿)の中から抜粋した、2011年の台風12号による農作物や施設被害の一例である。大雨で重くなった稲に強風が吹き付け、倒伏した水田の状況の報告が、中四国および近畿から多く寄せられた。また、長い時間大雨に見舞われたことにより、水田の冠水や周辺の山から土砂が流れ込み、水田自体が甚大な被害を受けた地域もあった。

 鳥取県では収穫間近の梨が強風で落果するなど、さまざまな農作物に大きな被害をもたらすなどの報告もあったが、前章でも述べた特徴を表すように、この台風による被害の報告は、長く続いた雨により、もたらされたものが多かった。


表3 台風12号による農作物の被害(ウェザーリポートから)
umeda_kisyo6_hyo3.jpg

umeda_kisyo6_hyo3-0.jpg

umeda_kisyo6_hyo3-1.jpg


 表4は、同じくウェザーリポートから抜粋した、2011年の台風15号による農作物や田畑、栽培施設への被害の一例である。台風は、本州接近前に高い海面水温の海域で発達し、そのまま静岡県浜松市付近に上陸。東日本を中心に、暴風による多くの被害をもたらし、稲の倒伏や農業用ハウスの倒壊・損傷、作物の品質低下などを招いた。また、この暴風により、東日本の海岸に近い地域の農作物には、一部「葉がしおれた」など、塩害による野菜の生育障害も発生した。


表4 台風15号による農作物の被害(ウェザーリポートから)
umeda_kisyo6_hyo4.jpg

umeda_kisyo6_hyo4-1.jpg


 これらのリポートからもわかるように、収穫時期およびその直前に台風に遭遇すると、地道な農作業の成果に多大な影響があることは必至である。それゆえ、当該シーズンの台風襲来の可能性は、農家にとって大きな関心事である。接近時などの短期的な予測情報に加え、中期的な予測情報もニーズとしては高く、今後各気象会社や関係機関による有効な情報提供が求められる。


3.農作業上の対策への台風情報の利活用
 近年、台風情報を含む気象情報は、テレビやインターネットはもちろん、携帯電話での情報サービスでも手軽に入手することができる。広範囲にわたって甚大な被害をもたらす現象だということもあり、日本付近で発生した台風はその直後から広く報道され、多くの農家は前広な警戒や対策作業をとることも多い。ただし、栽培面積が広大になればなるほど対策作業の量も多く、実施可能な対策は限られ、栽培中の作物を完全に被害から守るのは困難である。

 とはいえ、予想される風の強さやタイミングをみて、農業用ハウスのビニールが飛ばないように手だてし、暴風が予想されるとハウス本体の倒壊を防ぐために、ビニールなどの被覆物をはぎ取る。また、収穫直前の野菜や米では、最適期には多少早くても収穫することもある。いずれも被害を最小限にするための対策である。


 このように、台風対策として近年、意識的に襲来時期を回避できるような栽培計画を組んだり、品種を選んだりするなど、襲来時直前のみならず、年間計画の中で、リスクを最小限に抑えるような工夫をする農家も増えている。

 また、台風は中心が接近すると、付近で雨・風ともに強まることは一般的に知られているが、日本付近では、北上する台風の進路の東~南東側で雨・風ともに強まる。これは台風自体の進行方向と、台風の中心に向かって吹き込む風の向きが一致して勢いが強まるためで、自分の田畑が台風の進路の東側に入る場合は、より厳重な警戒が必要となる。もちろん、西側にあたる場合においても、十分な警戒が必要であることに変わりはない。


 最近は、農作業中でも携帯電話等で、地図上における台風の現在位置・予想位置とともに、風速25m/s以上、15m/s以上の暴風域・強風域、今後の暴風警戒域など、さまざまな台風情報を見ることができる。台風発生直後の情報や、日本付近に接近した台風の3時間ごとの詳細情報(最新の進路や雨・風の予想、交通機関への影響)を、メールにより、携帯電話利用者に即座に送信するサービスもある。台風の位置を確認しながら、最適かつ迅速な農作業判断に役立ててもらいたい(表5)


表5 最新の台風情報の入手手段
umeda_kisyo6_hyo5-1.jpg

umeda_kisyo6_hyo5-2.jpg

umeda_kisyo6_hyo5-3.jpg


 その他、過去の台風による農作物への被害や、農作業への影響の記憶や記録をもとに、今後の対策に活かすことも重要である。台風メニュー(台風CH)では、「対象年度」「該当月」「最低気圧」「最大風速」「日本への影響」などの特徴を条件設定すると、該当する過去の台風の経路や勢力など、過去のデータも振り返ることができる機能があるので、参考にしてほしい。(つづく)

うめだ おさむ

(株)ウェザーニューズ 栽培気象グループ 気象予報士 1989年入社。予報センターなどを経て、2010年より栽培気象グループ。生産者向けコンテンツを携帯電話などで提供中。