提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業に気象情報を活用しよう(5)

2013年07月04日

盛夏期の農作業への利活用

                             (株)ウェザーニューズ 梅田 治

▼前回の『農業に気象情報を活用しよう(4)』はこちら


1.盛夏期の天候
 地球温暖化が取りざたされている昨今、猛暑に悩まされる夏が続いている。特に2010年は記録的な猛暑となり、野菜や稲、果樹などの作物への影響はもちろん、各農家や農業生産法人などで働いている「人」への影響も数多く及び、熱中症等への対策情報の必要性が強く叫ばれる年になった。

 表1は、札幌・東京・福岡の各都市における2010年と2011年の7~8月、日平均気温の平年値との差を示したものである(日平均気温値は7日間の移動平均)。
 総じて平年より気温は高く、2011年は気温差のメリハリが大きい年だったが、2010年は、全期間を通して明らかに「暑い夏」だったことがわかる。このような暑い夏は、太平洋高気圧が強い勢力を維持し、西日本~東日本を中心に日本付近全体を覆う状態が続きやすい。台風も太平洋高気圧の縁辺を時計周りに回る形で日本付近に近づけないことが多く、晴れて猛暑となる日が続くことも多い。


表1 2010年、2011年の7〜8月における日平均気温の平年比較 
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 特にここ数年は、最高気温の記録を塗り替えるような猛暑の年が続いている。その多くは太平洋高気圧に広く、あるいは部分的に覆われることが要因となっている。表2は、各地で猛暑となった日の気圧配置図である。気温が顕著に上がるのは、中部から関東など東日本が比較的多く、山越え気流がフェーンとなって吹き降りたり、熱波がすり鉢状の地域周辺に滞留することなど、地形的な要因によってもたらされることが多い。

 また、下記3例とも、南海上に台風があることにも注目だ。2010年7月22日の例では、中国の海南島付近に台風がある。ここからの湿った空気の流入が、少なからず影響していると思われる。このように「太平洋高気圧の圏内である」「暖かい湿った空気が山越えで入ってくる」などの条件となる時は、猛暑に注意が必要である。


表2 日本各地で猛暑となった日の気圧配置図
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 一方、冷夏の年は太平洋高気圧の勢力が弱く、オホーツク海高気圧が日本付近に張り出すことにより、特に東北地方以北の太平洋側を中心に、冷湿な空気を送り込む。表3のように、前線や低圧帯が日本の南岸や南海上に横たわることが多く、この気圧配置が継続する時は、日照不足や低温による病害虫の発生に注意が必要である。


表3 北日本~東日本で涼しくなった日の気圧配置図
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2.作物への影響
 夏期は、全国各地から、さまざまな生育障害を報告するリポートが寄せられる。
 30℃を超える気温を記録する時は、ほとんどの野菜の生育適温を超え、35℃を超えると、より深刻な生育障害が発生する。日中、35度を超える日が多かった2010年は特に、「野菜の葉焼け」や「米の白濁」による高温障害が多く発生し、その症状を伝えるリポートが何通か寄せられた。表4はその代表的なものである。


表4 2010年、2011年の猛暑の野菜や米への影響を伝えるリポート
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 「葉焼け」は、強い直射日光を受け続けて、野菜の葉が茶色くなったり、場合によっては枯れる現象のことである。表4のリポート写真(上段)は、2011年8月の猛暑により、ナスに出た症状である。この年一番の暑さが全国的に一週間程度継続していた時期で、時折にわか雨が降るものの、野菜の元気のなさを伝えるリポートが多数寄せられた。
 下段は2010年10月のリポートで、当年の猛暑による米の品質への影響を危惧・その結果が報告されたものである。米の高温障害の典型的な発現現象は、「玄米の白濁化」である。これは米が発育・肥大する「登熟期」に高温や日照不足などにあうことにより、玄米の中心部や側面が透き通らずに白く濁った色になるもので、等級分類も下がるなど、品質評価に大きく影響する。日中に光合成により作られたデンプンが、夜間の高温により、稲穂の生長のために送り込めない(自身の呼吸に使われる)ために、未熟米に結びつくのが原因だ。2010年は、全国的に高温障害が多く、特に新潟県では一等米比率が20%を切るなど、顕著な影響が出た年となった。

 また、カメムシも夏季高温年に大量発生し、玄米から吸汁することにより、斑点米などの不良米の発生原因となる。カメムシについても、ここ数年多くの発生リポートが寄せられている。


3.農作業上の対策への気象情報の利活用
 当日、「暑くなるか? 涼しくなるか?」は、表2、表3で示した気圧配置図により、大まかな予想を立てることができる。ただし、35℃を超えるような猛暑となるか否かは、当日の気温実況を確認しながら、可能な対策をとることが望ましい。最近は、設定した気温を上回ったり下回ったりすると、携帯電話にメールで知らせてくれるサービスもある。

 稲作農家にとっては、田んぼに引き入れる水量調整の対策など、昼だけでなく夜間の気温も気になるところで、それには地上観測の実況データとピンポイント予報の活用が有効である。表5の情報では、各都市の1時間ごと36時間先までの気温/降水量/風向風速/天気の予想データを見ることができる(上段・中段参照)ので、今日明日くらいまでの農作業計画を立てるのに、大いに有効である。


表5 気温データ(過去実況および今後の予想)の画面およびメールサービス例
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 また、猛暑の際には、敷き藁や灌水などの乾燥防止、ハウスの被覆などによる遮光等の作業も行われるが、その判断にも、表5で示した最新のデータの活用は有効である。夏期に日常的に実施する対策かもしれないが、より厳しい状況となりうるかどうかは、最新の気象情報で確認したい。その際、アメダスなど既設の観測器だけでなく、居住地の近隣に地方公共団体や民間が独自に設置した観測地点があれば、それも有効に活用したいところである。

 また対策に時間がかかりそうな作業の判断には、前回コラム図3に示した異常天候早期警戒情報なども参考にしたい。(つづく)

うめだ おさむ

(株)ウェザーニューズ 栽培気象グループ 気象予報士 1989年入社。予報センターなどを経て、2010年より栽培気象グループ。生産者向けコンテンツを携帯電話などで提供中。