提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


消費者の視点に立った農業 【1】

2007年04月02日

1. 直売所は単なる“売り場”ではない
    青山浩子(農業ジャーナリスト)


 直売所がもつ機能とは何か? いうまでもなく、新鮮な農産物を売ったり、買ったりできることがまず挙げられる。しかし、それだけでなく別の役割、機能も担っていることを実感している。


 一つは、「地産地消を拡大するための拠点」になっていることだ。

 学校給食に地元の食材を使いたいという要望は高まっており、これに対応する産地、農家も少なくない。しかし、品数、安定供給、物流などの点で不安があるため、「学校側は使いたいといっているが産地が要求に応えられていない」という声もよく耳にする。

 こうした場合、直売所がよき仲介役になれる場合がある。すでに安定供給の仕組みができているので、学校給食で使う農産物をプラスして、作付け計画を作ることもできる。直売所のなかには学校給食への供給拠点となっているところもある。


 二つ目に、「『食育』を提供する場所」としての機能だ。

 子供たちが総合学習などの時間を利用して、畑や田んぼで農業体験をするのはごく一般的になってきた。しかし最近では、生産から販売までの一連の流れを知ってもらおうと、子供たちが作った農産物を直売所で販売するという食育もおこなわれるようになった。直売所は子供たちが農産物を売るということを学ぶ「教室」となっているのだ。


 三つ目に地域の「コミュニティセンター」としての機能だ。

 かつては“井戸端”がコミュニティセンターの機能を果たしていたが、井戸端はとうの昔に消え、気軽に集まってしゃべる場所がなくなってしまった。だが、人間関係が希薄になりがちな現代こそコミュニケーションは求められている。直売所は、まさに“井戸端”の役割を果たしてくれる。


 このように多様な機能を持っていることを教えてくれた直売所がある。兵庫県佐用町(旧上月町)にある(有)ふれあいの里上月である。

「ふれあいの里上月」の外観

 旧上月町は「もち大豆」という地場大豆によるまちおこしでよく知られている。転作として作った「もち大豆」を、生活改善の女性グループが味噌や豆腐に加工している。それが多くの消費者に知られるようになり、平成8年に加工施設、次いで直売所もオープンした。

 旧町民は5000人ほどで、過疎化の進んだ地域だが、この直売所には年間20万人が訪れるという盛況ぶりだ。オープン当初はマスコミなどで紹介され、地元以外の利用客は多かった半面、地元客の購入頻度が少なかった。


 「地元の人が使ってくれてこそ町の活性化になる」という女性グループの考えから始まったのが食育だった。旧上月町には小学校が3校、中学校が1校ある。ふれあいの里上月の中井照美社長は各学校を訪ね、「加工所を見学してもらい、味噌づくりや豆腐づくりの体験をしてみませんか」と呼びかけたところ、学校側はのってきた。

 小学校は3年生が加工所の見学、5年生になると豆腐と味噌づくりの体験をする。中学校の生徒たちは大豆栽培から一連の流れを体験する。仕込んだ味噌は1年間熟成させ、各家庭に持ち帰るようになっている。


 これ以外にもユニークな食育を実施している。直売所では毎年10月に「秋の感謝祭」と称するイベントを開く。店舗のみならず屋外にテントを張り、農産物や加工品などを来場者に販売し、つきたてのお餅やもち大豆で作った豚汁をふるまう。このイベントへの参加を地元の小中学校の生徒にも呼びかけているのだ。希望する生徒は売り場に立って販売体験をする。

地元小学生が豆腐づくりを体験


 こうした交流が土台となって、小中学校の給食では、加工所でつくった味噌、豆腐、味噌まんじゅうが定期的に使われるようになった。また、みそや豆腐づくりの体験した子どもたちが、親を連れて直売所にみそや豆腐を買いにきてくれることも頻繁だという。

 中井社長は「こどもたちが情報の発信源になってくれている。加工所で体験したことを自宅で家の人たちに話す。こうしてもち大豆が地元の人に広まっていくことがいちばん大事だと思う」と話す。


 直売所では大豆加工品のほか、地場の野菜や米なども販売している。その脇にうどんなど軽食が食べられるコーナーがある。筆者が取材で訪れたときも、お年寄りがうどんを食べに来ていた。お客さんと店員さんが交わしていた何気ない会話に、直売所が地元の人のよりどころになっていることが感じられた。


 直売所が消費者の認知を受ける一方で、スーパーとの競合も生まれている。だが、スーパーには持ち得ないさまざまな機能が直売所には備わっている。それらはいまの消費者、社会が求めているものでもある。まずは直売所単体で利益を出すのが最優先だが、事業の幅を広げていく方法はいくらでもありそうだ。それが直売所の生き残りにもつながるはずだ。
(月刊「日本の農業」2006年10月号(全国農業改良普及支援協会発行)より転載)


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あおやま ひろこ

1963年愛知県岡崎市生まれ。京都外国語大学卒業。JTB勤務、韓国留学後、(株)船井総合研究所等で農業コンサルに携わり、99年フリーに。著書に「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞社)など。