提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


麦・大豆

麦編 品種の選定 ハダカムギ

2010年12月20日

はじめに

●ハダカムギ(裸麦)は、種子の穀皮が脱穀時にはがれ落ちる特性をもつオオムギです。
●栽培法などは、普通のオオムギと大差はありません。
●千粒重が30gを下回るような場合、整粒歩合だけでなく外観品質もかなり悪くなります。
●需要に対して、生産が大きく不足した状態が長く続いており、増産が求められています。
●麦価は品種・産地によって異なりますが、カワムギ(皮麦)品種(流通区分では小粒大麦あるいは大粒大麦)よりも高めであり、作付けの補助金である「緑ゲタ」単価、品質対象の補助金である「黄ゲタ」も現在は高く設定され、経営的に有利な麦種です。
●ここでは品種選択を中心としたポイントを、紹介します。

地域別品種の紹介

「六条ハダカムギ」 
●現在作られているハダカムギの多くは六条性の品種ですが、栽培特性や品質特性の異なる品種が多くあります。
●最近では穂型・草型の異なる二条の品種も出てきています。
●麦味噌の原料として多く用いられているほか、麦飯や焼酎などにも利用されています。
●栽培環境や、実需者への販売条件から、品種を選択します。

◆イチバンボシ
●育成当時から、その優れた栽培特性、収量性、品質が評価され、2001年には全国のハダカムギ栽培面積のうち、93.8%を占めた品種です。
●普及しているハダカムギ品種としては最も早生で、作りやすいものです。
●栽培場所や年によって、春落ち症状(穂肥期以降に本来の草勢を失って収量が上がらない)が見られます。
●四国、九州、中国、近畿、関東で奨励品種に採用されています。
●多くは麦味噌の原料や麦飯などに用いられます。麦茶用として使われている例もあります。
●安定した実需者ニーズがあります。 
右 :出穂期のイチバンボシ 

◆マンネンボシ
●愛媛県でイチバンボシに代わって普及した、多収で品質の優れる六条品種です。
●耐倒伏性が特に優れ、極多収をねらっての多肥栽培にも向きます。
●他のハダカムギ品種同様、湿害対策は多収をねらう上で不可欠です。
●播種時の土壌が過湿である場合には、発芽不良となるケースもみられるため、注意が必要です。
右 :穂揃い後にサンダルを麦の上に投げてものっかっているぐらい、穂数を立てても大丈夫(愛媛県西条市の生産者) 

◆トヨノカゼ
●イチバンボシの後継品種として、大分県、山口県で奨励品種に採用されています。
●ドリル播きで「イチバンボシ」よりも10%多収(※1)で、搗(とう)精時間も短い、軟質の品種です。
●種子は「イチバンボシ」よりも丸みを帯びており、千粒重は大きめです(図1)。 


図1 「イチバンボシ」(左)と「トヨノカゼ」(右)の粒形の違い
「トヨノカゼ」は粒形が丸みを帯びており、整粒歩合が高い


●多収特性(千粒重が大きく、穂数を多くする栽培法でも整粒歩合が落ちにくい)を生かした新しい栽培法と組み合わせる体系が、開発中です。


トヨノカゼの栽培(大分県)

◆ダイシモチ 
●出穂後3週間ぐらいで、穂があざやかな紫色にかわり、粒も外観が紫色になる六条品種です。(図2、3)


左から上から
図2 「ダイシモチ」の穂 :成熟期に近くなると、穂が紫色に着色する /
図3 「ダイシモチ」の種子 :成熟期には紫色になるが雨にあたると色が薄くなる。 


●やや収量性が劣るものの、早生で栽培しやすい品種です。
●奨励品種としての採用県はありませんが、愛媛、香川、徳島、茨城などで栽培されています。
●縞萎縮病やマイルドモザイク病などの土壌伝染性ウイルス病には弱く、発病すると大きく減収してしまいます。
●縞萎縮病は防除が難しく、早播きすると被害が大きくなるため、12月に入ってからの極晩播で、被害をやや軽減させることができるようです。
●紫色の色素は水に溶ける性質があり、降雨によって次第に流れ落ちるので注意します。
●収穫期の天候に注意して、必要に応じて早めの刈り取りをするとよいでしょう。
●あまり早くに刈り取ると種子の充実が悪くなり、収量が低下するだけでなく、調製時にも脱芒しにくくなるため、注意が必要です。
●もち性であるため、麦飯の「ぼそぼそ感」がなく、粘り(もちもち性)のある優れた食感です。
●特徴的な品質特性を求める食品メーカーとの契約栽培や、生産者による特産加工品の原料として、生産が続いています。
●麦飯用として使う紫色を残した搗精麦や、種子を発芽させてアミノ酸や麦芽糖のうまみを増した麦芽御飯、製粉した粉を用いたケーキ、焼き菓子のほか、焼酎や麦味噌なども特産品として人気があるようです。

「二条品種」
●六条品種に比べると一穂着粒数が少なく、多収を目指すには、穂数を多く取ることが必須条件です。
●選抜の段階から、穂数が多く、かつ多穂栽培をしても耐倒伏性が優れるものが、選ばれています。

◆ユメサキボシ
●2008年に初めて育成された二条ハダカムギ品種です(図4)
●六条品種に比べて、粒が大きい特徴があります。


図4 「ユメサキボシ」(左)と「イチバンボシ」(右)の穂型・粒形の違い。
「ユメサキボシ」は二条性の穂をもち、種子が大きい


●千粒重は普通の栽培条件で40~43g程度で、同じ条件で栽培した六条品種よりも5g以上重くなります。
●穂数が多く、直立型で倒れにくいかん質をもっており、二条ハダカムギの標準となる品種です。
●茎立ちが早いため、しっかり麦踏みをする必要があります。
●「イチバンボシ」に比べて、成熟が3~4日程度、遅くなります。
 

収穫期のユメサキボシ

◆キラリモチ
●「極低ポリフェノール・もち性・高ベータグルカン」の特徴をもつ、高品質二条ハダカムギ品種です。
●2009年に品種登録出願されました。
●遺伝的にプロアントシアニジン(ポリフェノールの一種)が穀粒に蓄積しないような特性を持っており、炊飯後保温中に黒ずみません。(※2) 


「キラリモチ」(左)と「イチバンボシ」(右)の麦飯。
炊飯後保温17時間目のもの。「キラリモチ」は明るい色を保っているが、「イチバンボシ」などの普通の品種では色が黒ずむ


●二条皮麦では「白妙二条」や「とちのいぶき」などが同様の極低ポリフェノール特性をもっています。
●その名のとおり、「もち性」の品種で炊飯麦の食感は「モチモチ」しており、通常のうるち性のオオムギ・ハダカムギの麦ご飯が冷めたあとの少し「ボソボソ」した感じがないため、おいしく食べやすい麦ご飯ができます。
●「もち性」の特徴を持つ品種で、含有量の多いベータグルカンの健康機能性(血糖値上昇抑制効果)(※3)の面から注目されています。
●かん長が「ユメサキボシ」に比べておおむね20cm程度短く、種子収量も少なくなりやすいです。
●短かんであるため、倒伏することはほとんどありません。
●反収は200kg程度で、おおむね「イチバンボシ」比8割程度に留まっています(近畿中国四国農業センターでの累年成績による)。
●多収栽培のためには、施肥量や播種量を多めにするなどして、穂数を十分に確保する必要があります。
●排水の悪い湿害のおきやすい圃場では、排水対策が大切です。

◆ビューファイバー
●作物研究所が2010年に開発した、極高ベータグルカン特性をもつ二条性の品種です。
●穀粒のベータグルカン含有率は、9.8%とたいへん高くなります(同一条件で栽培した「イチバンボシ」は3.2%)。
●穀粒はしわ粒になるために、やや搗精しずらく、むしろ穀粒を粉砕・製粉して「ハダカムギ粉」として利用することが想定されている品種です。
「ビューファイバー」の「ハダカムギ粉」を使ったケーキやお菓子、カレー粉などが開発され、販売が始まっています。
●ハダカムギ粉はコムギのようなグルテンをもたないので、パン用に使うときには、強力小麦粉とブレンドして使います。
●オオムギ・ハダカムギの健康機能性から、「ビューファイバー粉」を活用した食品の開発や需要は今後かなり伸びてくるものと思われます。
●関東以西の平坦地への適応性をもつ品種で、すでに栃木や茨城での試作栽培が始まっています。

品種選びの際の注意事項

●ハダカムギでは千粒重が30gを下回るような場合、整粒歩合だけでなく外観品質もかなり悪くなります。
●小粒化は、登熟環境が劣る湿害圃や中山間地で顕著に見られる障害ですが、多収を目指して、穂数を極端に多く取ったときにも起きることがあります。
●粒の大きさは整粒歩合や検査等級にも影響し、生産者の収入にも直結します。
●ハダカムギに限らず、麦類の生産にあたっての品種選択では、出荷方法から逆算して考えることが必須です。
●JAあるいは全集連業者を通じた一般的な方法での出荷を想定する場合には、扱い対象品種を作付けしないと出荷の対象にならないため、品種の選択にあたっては、事前にJAや普及指導センターに相談することをお勧めします。
●「ダイシモチ」などの地産地消型品種は、特に加工あるいは販売について、事前の計画が必要です。
●オオムギ・ハダカムギの機能性成分が注目されている中、食品メーカーなどにはハダカ麦に対してもいろいろなニーズがあるようです。必要に応じて、農研機構・近畿中国四国農業研究センター・大麦はだか麦研究チームにもお問い合わせください。

※1 近畿中国四国農業研究センターのデータによる
※2 穀粒中のポリフェノールの一種(プロアントシアニジン)の酸化・褐変が黒ずみの原因
※3 ベータグルカンは食物繊維の一種。ベータグルカン含有率は「イチバンボシ」(六条・ウルチ)が4.7%であるのに対し、「キラリモチ」は7.2%と高い(近畿中国四国農業センターでの栽培生産物のデータによる)

執筆者 
長嶺敬
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 大麦はだか麦研究チーム 
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