提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


麦・大豆

麦編 湿害

2010年12月 9日

はじめに

●ムギは、比較的乾燥した地帯での栽培に適しています。
●日本は降水量が多く、水田での栽培も多いため、湿害が発生しやすい環境となっており、収量、品質の低下が問題となっています。
●ここでは、湿害の原因と対策を解説します。 


 :著しい湿害被害を受けたコムギ /  :3月のコムギの株(茨城県内の試験圃場より採取)

湿害の原因

●湿害は、「過剰水分に基づく土壌の空気不足に起因して作物が生育障害を起こす現象」と定義されています。
●ひと口に湿害といっても、ムギの生産地の気候、圃場の条件は千差万別で、発生の様相はそれぞれ異なります。
●個々の圃場の実態をよく把握して、適切な圃場管理を行うことが、湿害対策の基本となります。

湿害はどのように発生するか

「圃場への水の侵入と滞留」
●多量の降雨、灌漑水等の流入、隣接した圃場からの流入等によって、多量の水が圃場に侵入します。(下図)

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 :雲と雨  /  :圃場を上から見た模式図

「土壌水分の上昇」
●圃場が低い土地にあると、地表面に水が湛水状態で滞留します。
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圃場の断面の図


●地下に粘土層や鋤床などの硬盤があると、水が浸透せず、地下水位が上昇します。
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圃場の断面の図

●代かきなどの前作の影響で、土壌が単粒化していると、水を含みやすくなります。
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圃場の断面の図

●ただし、土壌水分が上昇しただけでは、明らかな湿害症状がでるまでにはなりません。

「土壌中の酸素の低下」
●土壌には土壌粒子(固相)、水(液相)、空気(気相)がありますが、土壌に水が侵入した分の空気が押しのけられます。

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土壌の断面の図

●空気の流れも止まり、停滞した状態になります。
●ムギの根、微小動物(ミミズや昆虫類を含む)や微生物が土中で呼吸することによって、酸素が消費され、さらに酸素濃度が下がります。
●春先以降は気温、地温が上昇し、作物や微生物が活発に活動して酸素をたくさん使うので、ますます酸素濃度は低下しやすくなります。
●ムギの根の呼吸が妨げられるので、根が伸びにくくなり、結果として株全体の生長が衰えます。

「肥料分の亡失と有害物質の発生」
●空気中の酸素濃度が低下してくると、微生物はその代わりを探します。
●次の標的になるのが、窒素肥料です。
●窒素肥料中の酸素分子が消費されることで、肥料分が失われてしまいます。
●その結果、葉が黄化し、光合成を行う能力が落ちて、株全体の生長が衰えてしまいます。
●さらに酸素不足が進むと、鉄、マンガン、イオウが有害な形で蓄積して、ついにはムギが枯死してしまいます。

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湿害の発生メカニズム

湿害対策

●湿害を軽減するためには、圃場ごとの湿害の発生の原因に基づいて、最善の方法を選択することが大切です。

「排水対策」
●圃場に明渠、暗渠などの溝を掘ることで排水を促進して、土壌中に水がたくさん含まれる前に表面から排除したり、浸透したとしても地下水位を下げることができます。
●硬盤がある場合は、サブソイラを用いて、心土破砕をする方法もあります。
●十分な排水対策ができていれば、湿害を軽減できる圃場は多いと考えられます。
麦編 排水対策

「畝立て」
●畝立てには、ムギを地下水位から遠ざけ、土壌の表面積を増やして空気をより流通させる効果があります。
●大豆と同様に、ムギにも畝立てと同時に播種する栽培技術が用いられるようになってきました。
麦編 播種法

「その他の注意点」
●播種前に耕起すると、圃場に空気が入り、乾燥を進める効果があります。
●しかし、土壌を細かく砕くすぎると、逆に水を含みやすくなるので注意が必要です。
●土中が膨軟な状態で作業機を入れると、土壌が圧縮されて水はけが悪くなります。
●また、土壌水分が高いときに耕うんすると、土を練ってしまい、余計に水はけが悪くなることがあります。
●麦の生育期においても、良好な排水性を保つために、できるだけ土壌を圧縮しないよう心がけます。
播種期と播種量

湿害発生を助長する要因と条件 
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耐湿性品種への期待

●コムギはオオムギよりも耐湿性が強いと言われています。
●従来よりも湿害に強いとされるコムギ品種も出始めています。
●品種改良に必要な、耐湿性の極めて強いムギが見つかっていないことと、湿害の発生要因が複雑で、耐湿性の検定が難しいことが、品種改良のネックになっています。
●残念ながら、どのような湿害にも完全に対応できる品種はありません。
●湿害への対策は、圃場管理が第一と考えましょう。
●現在、根の通気組織、還元耐性など、作物の耐湿性に関係する性質を遺伝子レベルで研究し、将来に向けて麦の耐湿性を上げようという研究が進められています。

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根の通気組織

執筆者 
川口健太郎
農研機構 作物研究所麦類遺伝子技術研究チーム
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

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