提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


麦・大豆

麦編 施肥基肥

2010年12月 8日

はじめに

●イネは土でとり、ムギは肥料でとるといわれるほど、ムギにとって肥料は重要です。
●基肥では、植物の多量元素であり肥料三要素である「窒素」、「リン酸」、「カリウム」を施用するとともに、必要に応じて、堆肥などの有機物やpH矯正資材などを投入します。

適正な基肥施用の考え方

●コムギの標準的な肥料施用量は、一般的に10aあたり窒素8~10kg、リン酸7~9kg、カリウム8~10kgです。地域によって決められた適量を施肥します。

「窒素」
●基肥では全窒素肥料の50%程度を施用し、残りは必要時期に応じて分施(追肥)します。
●窒素肥料として用いられるアンモニア態窒素は、畑条件では時間の経過とともに、地下に流れ出て失われます。
●基肥窒素を利用できる時期のコムギは小さく、生育に十分な窒素を基肥だけで吸収し蓄えることができないため、生育中盤以降に追肥が必要です。 
●コムギの子実タンパク質含有量を上げるには、基肥でなく、生育後半での窒素追肥が有効です。

「リン酸」
●リン酸、カリウムは、土壌中であまり移動しないので、基肥で全量施用します。
●リン酸は、根の生育促進などの初期生育や寒地での耐寒性、分げつ数、開花結実などに影響します。
●コムギのリン酸吸収力は水稲と比べて少ないため、土壌のリン酸濃度を水田より高くする必要があります。
●生育の早い段階の吸収力が高いため、生育前半に十分に吸収できる基肥施用が重要です。

「カリウム」
●カリウムは肥料要素のうちもっとも吸収量が多く、土壌からの収奪量も多くなります。
●茎葉に多く含まれ、収穫残さの投入によって圃場に再供給されるために、収穫により持ち出された量を補う施肥が必要になります。  
 
「施用の位置」
●肥料成分を効率よく利用するためには、基肥を施用する位置が重要です。
●リン酸のように移動しにくい成分は、特にリン酸吸収係数が高い火山灰土壌では、種子の近くに局所施肥すると増収するという報告があります。
●カリウムは、比較的多く土壌に吸着されているため、施肥位置による違いは少ないと考えられます。

「その他の注意点」
●微量要素は、堆肥などを定期的に投入することで、十分に供給されていると考えられます。
●ただし、土壌のpHが極端に低かったり、塩基のバランスが崩れていると、微量要素をうまく吸収できずに欠乏症となる恐れがあるので、注意します。
●播種前に堆肥を施用して、微量要素だけでなく、有機態炭素を補給したり、土壌の物理性(特に通気性)を改善するようにします。

適正施肥量の判断

●水稲作では、葉色や土壌の窒素無機化式を用いた窒素栄養診断などが確立されているのに対して、小麦作では(基準が)まだ確立されていません。
●そのため、地域により決められた適量を、基肥として施肥することが基本となります。
●土壌窒素や葉色などの生育診断を組み合わせて施肥量を決める施肥診断が一部で始まっています。

「リン酸」
●土壌のリン酸濃度は、一般的に畑では火山灰土壌で30~80mg/100g、その他の土壌で20~30mg/100gが望ましいとされています。
●作土に下層土が混入した造成初年度の圃場など、リン酸が少ないことが予想される場合はリン酸を多めに施用します。
●リン酸は利用率が低い(土壌中でアルミニウムや鉄と結合して不溶化される)ため、植物の吸収量より多く施肥されてきた結果、長年の多投入によって土壌へのリン酸蓄積が言われています。
●加えて、最近の肥料価格高騰やリン酸資源の枯渇の恐れを受けて、リン酸肥料減肥のための土壌診断手法の研究が始められています。

「カリウム、石灰、マグネシウム」
●水田転換畑では、排水不良で湿害を受けるとカリウム不足になりやすいのですが、排水対策に加えて、カリウムを多めに施肥すると生育不良が改善されると言われています。
●石灰(カルシウム)、苦土(マグネシウム)は、作付けごとに施肥する必要はありませんが、土中に十分あることと、カリウム、石灰、苦土のバランスがよいことが大切です。

肥効調節型窒素肥料の利用

●肥効調節型窒素肥料を用いた全量基肥施用技術、あるいは土入れ期の追肥施用技術が確立されつつあります。
●肥効調節型肥料には、施肥後すぐに一定の割合で窒素肥料を溶出するリニア型と、施肥後しばらくは溶出が抑制された後に溶出を開始するシグモイド型があります。
●肥効調節型肥料を25℃水中に置いたとき成分の80%が溶出するのに必要な期間(日数)を溶出期間といい、商品名に含まれる数字(たとえばLP30の「30」)などにより示されています。
●温度によって成分が溶出する期間が変化し、低温になるほど溶出が緩やかになるため、冬期のコムギ作付け期間中では、実際の溶出期間が長くなります。 
●地域によって気温、降雨などの気象条件が異なるため、条件にあった溶出期間、溶出パターンの肥料を選ぶようにします。
●実際の溶出パターンの一例として、広島県福山市で行った30日溶出タイプの肥効調節型窒素肥料溶出試験の結果を示しました(下図)。


基肥施用した肥効調節型肥料のコムギ栽培期間中の溶出
 2002年11月~2003年6月、広島県福山市のコムギ栽培試験圃場で測定
 播種時に土壌深度約5cmに埋設


リニア型30日溶出タイプの肥料では、実際には約5倍の150日で80%の窒素成分が直線的に溶出した。シグモイド型30日溶出タイプでは施用後の冬期120日間の溶出抑制の後、3月より溶出を開始し、5月までには60%の成分が溶出した。慣行栽培では3月に追肥を行うため、シグモイド型30日溶出タイプの基肥施用によりこの追肥の省力化が可能であると考えられる。

執筆者 
木村秀也
中央農業総合研究センター 大豆生産安定研究チーム
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