提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


品種

地域に適応した良食味品種

2010年4月 5日

(2014年6月 一部改訂) 

はじめに

●現在、炊飯米の粘りが強いコシヒカリ系品種に作付けが集中していますが、岐阜県の「ハツシモ」や宮城県の「ササニシキ」といった、「コシヒカリ」とは少し食味が異なる良食味品種も根強い人気があります。
●嗜好性に関する地域や個人差の他に、寿司、おにぎり、冷凍米飯用といった用途により、品種の適性は異なると考えられています。
●品種の良食味の要因として重要な、粘り、硬さという米飯物性は、アミロースやタンパク質などの成分含有率に起因する場合が多いといえます。
●ここでは、良食味品種をコシヒカリ系、ササニシキ系、旭系、低アミロース系に分けて、それぞれの米の物性や成分の特徴について述べ、各地域に適した主な品種を紹介します。 
●各道県の独自ブランド品種については、他県では栽培できない場合が多いので、詳しい説明は省きます。

コシヒカリ系品種

●コシヒカリ系は、炊飯米の粘りが強いのが特徴です。アミロース含有率がやや低いものが多く、タンパク質含有率も比較的低い傾向があります。
●平成25年産水稲作付順位トップ10の品種は表のとおりです。日本で生産される米の多くは、「コシヒカリ」を直接親に持つか、「コシヒカリ」の血の濃い「ひとめぼれ」、「あきたこまち」、「キヌヒカリ」等を交配親に用いて改良されたコシヒカリ系品種です。

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注) 米穀機構のデータをもとに作成、赤字はコシヒカリもしくはコシヒカリと近縁の品種・系統
(クリックで拡大します)

●この他に、北海道の「ほしのゆめ」、新潟県の「こしいぶき」、福岡県の「夢つくし」などが比較的作付面積の大きいコシヒカリ系の良食味品種です。
●コシヒカリ系の良食味品種の中で、まだ作付面積は大きくないものの、「コシヒカリ」より、さらに粘りを強くした品種、収量性が高い品種、倒伏に強い品種、高温耐性に強い品種など注目される品種も紹介します。

多くの府県において奨励品種に採用されているコシヒカリ系良食味品種

「東北以西向き」
◆あきたこまち
●東北における代表的な良食味品種で、秋田県で特に多く栽培されています。
●秋田県における熟期は早生の晩です。
●稈長は中程度で、耐倒伏性はやや劣ります。
●耐冷性、いもち病抵抗性ともに中程度の品種です。

◆ひとめぼれ
●東北における代表的な良食味品種で、宮城県と岩手県で特に多く栽培されています。
●東北中部における熟期は中生の晩です。
●稈長はやや長く、耐倒伏性はやや劣ります。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽しにくい品種です。

◆はえぬき
●主産地である山形県のほか、秋田県、香川県で栽培されています。
●山形県における熟期は中生の晩です。
●稈長は短く、耐倒伏性は優れます。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性は中程度の品種です。

「東北南部、北陸以西向き」
◆コシヒカリ
●わが国の代表的良食味品種で、全国の作付面積の1/3以上を占めます。
●関東・北陸での熟期は中生、西南暖地では極早生~早生です。
●稈長は長く、耐倒伏性は劣ります。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性は弱く、穂発芽しにくい品種です。
●適地を越えた過剰作付けと登熟期の高温により、北陸、関東以西の平坦地などにおいて、品質の低下が近年問題となっています。

◆コシヒカリの同質遺伝子系統
●「コシヒカリ」は知名度が最も高い良食味品種ですが、(1)いもち病に弱い、(2)稈長が長く倒伏しやすいという2つの短所があります。
●このため、これらの形質のみを改良した「コシヒカリ」の同質遺伝子系統が育成され、普及しています。
●「コシヒカリ新潟BL」は、いもち病真性抵抗性以外の諸特性は「コシヒカリ」と同一であり、マルチライン(抵抗性の多系品種)として新潟県で栽培されています。
●「コシヒカリつくばSD1号、(商品名:恋しぐれ)」、「ヒカリ新世紀」などは、稈長が短く、倒伏しにくい「コシヒカリ」の同質遺伝子系統です。
●この他に、「コシヒカリ関東HD1号」、「関東HD2号」は、「コシヒカリ」をそれぞれ早生化、晩生化した同質遺伝子系統として育成されています。

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一番左 :コシヒカリ関東HD1号 /左から5番目 :コシヒカリ / 一番右 :関東HD2号
(提供 作物研究所)


  「北陸、関東以西向き」
◆キヌヒカリ
●栽培しやすいコシヒカリ系良食味品種として、近畿を中心に栽培されています。
●北陸における熟期は中生、近畿では早生です。
●稈長は「コシヒカリ」より10cmほど短く、耐倒伏性は優れます。
●いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽はややしやすい品種です。

「近畿以西向き」
◆ヒノヒカリ
●西日本における中晩生の代表的な良食味品種で、九州のほか、近畿、中国、四国の多くの府県で栽培されています。九州における熟期は中生です。
●稈長はやや長く、耐倒伏性は九州においてはやや劣ります。いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽しにくい品種です。
●近年の登熟期の高温により、九州および四国地域では品質の低下が問題となっています。

多収、高温耐性など注目されるコシヒカリ系良食味品種

「東北地域向け低コスト栽培向き多収、良食味品種」
◆萌えみのり(ひとめぼれ熟期)
●「ひとめぼれ」に近い良食味で、稈長が短く、耐倒伏性が強いのが特長です。
●省力的栽培法である直播栽培、特に表面播種において多収です。
●東北中南部における熟期は中生の晩です。
●耐冷性は強く、いもち病抵抗性はやや弱い品種です。

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 :直播栽培(散播)のあきたこまち(左)と萌えみのり(右)
 : ひとめぼれ(左)と萌えみのり(右) 
(提供 東北農業研究センター)


「東北南部以南向け良質、良食味品種」
◆つや姫 
●主産地の山形県のほか、宮城県、島根県、長崎県、大分県で栽培されています。
●山形県における熟期は「コシヒカリ」並の晩生です。
●稈長は短く、耐倒伏性に優れます。
●高温耐性に優れ、白未熟粒の発生が少なく、玄米品質は良好です。
●炊飯米の光沢・外観・味が優れる品種です。
●葉いもち抵抗性は強、耐冷性、穂発芽性はともに中程度です。

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 :つや姫の草姿 /  :つや姫(左)、コシヒカリ(中)、はえぬき(右)
(提供 山形県農業総合研究センター水田農業試験場)


「北陸、関東以西向け粘りの強い良食味品種」
◆イクヒカリ(キヌヒカリ熟期) 
●米飯は粘りがあって、「コシヒカリ」と同等の食味であり、特に、冷めたときには「コシヒカリ」に優るのが特長です。
●アミロース含有率は「コシヒカリ」より1%程度低い傾向があります。
●福井県、和歌山県、長崎県、鹿児島県で奨励品種に採用されています。
●北陸における熟期は中生の早です。
●稈長は「コシヒカリ」に比べて15cmほど短く、耐倒伏性は優れます。
●移植栽培において、「コシヒカリ」や「キヌヒカリ」より多収です。
●いもち病真性抵抗性遺伝子Pita-2を持ち、圃場抵抗性は中程度で、穂発芽しにくい品種です。

2010ine5_image5.jpg2010ine5_image6.jpg
 :イクヒカリ(左)とコシヒカリ(右)
 :イクヒカリ(左)、コシヒカリ(中)、キヌヒカリ(右) 
(提供 福井県農業試験場)


「関東以西向け低コスト栽培向き多収、良食味品種」 
◆あきだわら(日本晴熟期) 
●「コシヒカリ」に近い良食味で、玄米品質も良く、多収であることが特長です。
●標肥の「コシヒカリ」に対して、多肥の「あきだわら」では30%程度多収です。
●外食や中食用の業務用品種として注目されています。
●茨城県、栃木県、千葉県を中心に作付けが拡大しています。
●関東における熟期は中生です。
●稈長は中程度で、耐倒伏性はやや優れます。
●いもち病抵抗性は弱く、穂発芽は、ややしにくい品種です。


 :移植栽培のあきだわら(左)とコシヒカリ(右)
中 :あきだわら
 :コシヒカリ 
(提供 作物研究所)


「近畿中国四国地域向け良質、良食味品種」
◆きぬむすめ(日本晴熟期) 
●これまで、「コシヒカリ」と「ヒノヒカリ」の熟期の間に市場性の高い良食味品種があまりなかったのですが、「きぬむすめ」はこの熟期で、食味、品質、収量の三拍子揃った品種です。
●島根県、大阪府をはじめ、中国、近畿地域を中心に作付けが拡大しています。
●中国地域における熟期は中生です。
●稈長は中程度で、耐倒伏性も中程度です。
●いもち病抵抗性は中程度で、穂発芽性は中程度の品種です。


 :きぬむすめ
 :きぬむすめ(左)と日本晴(右) (高温登熟条件で品質が優れる) 
(提供 九州沖縄農業研究センター)


「九州向けの高温耐性、良食味品種」
◆にこまる(ヒノヒカリ熟期) 
●「ヒノヒカリ」に近い良食味で、高温年でも、玄米品質が「ヒノヒカリ」より安定して優れることが特長です。
●長崎県、大分県、愛媛県をはじめ、西日本を中心に作付が拡大しています。
●熟期は「ヒノヒカリ」よりやや遅く、九州北部では中生です。
●稈長は「ヒノヒカリ」よりやや短く、耐倒伏性は中程度で「ヒノヒカリ」より、やや優れます。
●いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽性は中程度の品種です。 

2010ine5_nikomaru1.jpg2010ine5_nikomaru2.jpg
 :にこまる(左)とヒノヒカリ(右)
 :にこまる(左)とヒノヒカリ(右) (高温登熟条件で品質が優れる) 
(提供 九州沖縄農業研究センター)

ササニシキ系品種

●ササニシキ系はコシヒカリ系に比べて、表層が軟らかくて粘らなく、あっさりとした上品な食味とされています。
●寿司用に適するという評価があります。
●ササニシキのアミロース含有率とタンパク質含有率はコシヒカリ系の「ひとめぼれ」と大きな差はみられません。
●「ササニシキ」は昭和60年から平成5年まで「コシヒカリ」に次ぐ全国作付面積第2位を記録した大品種でした。耐冷性やいもち病抵抗性が弱いこともあって、その後作付けは大幅に減少しましたが、コシヒカリ系とは少し違った食味への人気から、一定の需要が維持されてきました。

「東北中南部向け」
◆ササニシキ
●主産地である宮城県の他、岩手県、秋田県、山形県で栽培されています。
●東北中部における熟期は中生の晩です。
●稈長はやや長く、耐倒伏性は劣ります。
●耐冷性は、やや弱く、いもち病抵抗性は弱く、穂発芽は、ややしやすい品種です。

◆東北194号
●米飯の食味特性が「ササニシキ」に極めて近く、「ササニシキ」の耐冷性、穂発芽性を改良した新品種候補の系統です。
●東北中部における熟期は中生の晩です。
●稈長は中程度で、耐倒伏性はやや劣ります。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性は弱く、穂発芽しにくい品種です。 

2010ine5_image14.jpg2010ine5_image15.jpg
 :東北194号(左)とササニシキ(右)
 :左から 東北194号、ササニシキ、ひとめぼれ 
(提供 古川農業試験場)

旭系品種

●旭系はコシヒカリ系に比べて、大粒で歯ごたえがあることが特徴です。
●炊飯米の粘りはコシヒカリ系に比べて弱く、あっさりした味で口当たりがよいとされ、寿司用に適するという評価があります。
●アミロース含有率はコシヒカリ系のように低くないが、タンパク質含有率は低い傾向があります。
●以前、関西を中心とした地域では、「ハツシモ」、「朝日」など旭系品種の普及面積が他の地域に比べて多かったのですが、最近は「コシヒカリ」のような粘りの強い品種の作付けが多くなり、関東と関西の嗜好の違いは縮小しています。

◆朝日
●昭和6年に、「京都旭」から純系淘汰により選抜された古い品種で、岡山県では現在も奨励品種に採用されています。
●岡山県での熟期は、「ヒノヒカリ」よりも遅い晩生です。
●稈長が長く、耐倒伏性は劣ります。
●いもち病抵抗性は弱く、穂発芽は、ややしにくい品種です。
●脱粒しやすいという欠点もあります。


朝日(左)とヒノヒカリ(右)
(提供 岡山県農業総合センター)


◆ハツシモ
●岐阜県における主力品種です。
●岐阜県における熟期は、晩生です。
●稈長が長く、耐倒伏性は劣ります。
●いもち病抵抗性は弱く、穂発芽しやすい品種です。

2010ine5_hatsushimo17.jpg2010ine5_image18.jpg
 :ハツシモ /  :ハツシモ(左)とコシヒカリ(右) 
(提供 岐阜県農業技術センター)

低アミロース系品種

●アミロース含有率が15%以下で、糯(もち)と粳(うるち)の中間的な特性を持つ品種を一般に低アミロース米品種と呼んでいます。
●アミロース含有率が低いほど玄米は白濁します。
●低アミロース米品種は、炊飯米の粘りが強く、冷えても硬くなりにくくおいしいため、おにぎりなどに適しているとされています。
●冷凍寿司などにも利用されています。
●ここでは、白飯として利用されている代表的な2つの品種を低アミロース系品種として紹介します。
なお、"地域に適応した新形質米品種"も参考にしてください。

「北海道向け」
◆おぼろづき
●アミロース含有率は、一般米よりやや低く、14%程度です。
●他の低アミロース米品種と比べるとアミロース含有率はやや高く、米粒の白濁やもち臭が少なく、単品でも美味しい品種です。
●北海道における熟期は中生の早です。
●稈長はやや短く、耐倒伏性は、やや優れます。
●耐冷性は強く、いもち病抵抗性は、やや弱い品種です。


左から おぼろづき、ほしのゆめ、きらら397
(提供 北海道農業研究センター)


「関東~中四国向け」
◆ミルキークイーン
●「コシヒカリ」の突然変異によって、作り出された品種です。
●アミロース含有率は10%程度で、玄米は一般に白く濁ります。
●「ミルキークイーン」の特性は、米の粘りが強いこと以外は、「コシヒカリ」とほぼ同じです。
●東北南部以西の「コシヒカリ」を栽培している地帯で栽培できます。
●「ミルキークイーン」と同じ低アミロース遺伝子を持つ品種として、「ミルキークイーン」を早生化した「ミルキーサマー」、縞葉枯病に抵抗性で晩植栽培において多収の「ミルキースター」なども育成されています。 


 :ミルキークイーン(左)とミルキースター(右)
中 :ミルキークイーン
 :コシヒカリ 
(提供 作物研究所)


執筆者 
春原 嘉弘
農研機構 作物研究所 低コスト稲育種研究チーム
石井卓朗
農研機構 作物研究所 稲研究領域

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