提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農薬を削減する病害防除法

2008年10月26日

(2014年5月 一部改訂) 

農薬を削減する病害防除法の考え方

●水稲の有機栽培、減農薬栽培のために、農薬を使わないか削減する病虫害防除法が考えてられていますが、これらの栽培法は、病虫害の発生の少ないところで行うのが原則です
●民間などでは様々な方法が取り組まれていますが、病虫害の発生は環境条件に左右されるため、効果が確認できないか、効果が極めて低い場合もあります。
●以下では、これまでの試験研究で効果が確認されたものについて、記します。

「農薬を削減する病害防除法」 
●化学合成農薬を削減する水稲の病害防除法として、下記のような物理的、耕種的および生物的方法などがあります。
●病害の発生は気象条件の影響を受けますが、気象条件の影響が少ない種子消毒を中心に、化学合成農薬を使わない方法が実用化されています。

物理的方法

「温湯消毒」
●浸種・催芽前の乾燥した種子を温湯浸漬(60℃10分間など)し、その後直ちに水で冷やします。
●種子伝染性病害虫(いもち病、ばか苗病、苗立枯細菌病、もみ枯細菌病、心枯線虫病)に防除効果があります。
●浸漬温度が低い場合や浸漬時間が短い場合には、十分な防除効果が得られません。
●病害虫による汚染程度が高い種子を使うと、十分な防除効果が得られないので、温湯消毒には、病害の発生していない圃場から採った種子を用います。
●温湯消毒は種子を塩水選別した後 水洗いして、発芽障害を避けるため、十分乾燥させてから行います。
●陸稲、モチ米品種などでは上記の温度と浸漬時間では、発芽障害を生じることがあるので、浸漬時間を短くする必要があります。
●貯蔵状態の悪い種子も発芽障害を起こすことが多いので、温湯消毒は行わないようにします。
●温湯消毒後の種子はほぼ無菌なため、注意しないと病原菌による再汚染がおきます。
●再汚染を防ぐため、温湯消毒後の種子は未消毒の種子、稲わら、もみ殻などから離して管理してください。また、化学合成農薬で殺菌した種子や無殺菌の種子とは別に消毒した容器を用いて、浸種してください。
●低温条件(15℃以下)の浸種は、ばか苗病の発生を抑制します。
●温湯消毒後の種子をすぐに浸種しない場合、種子はすぐに十分乾燥します。乾燥しないと再汚染の原因になります。乾燥した温湯消毒種子は低温(15℃以下)、乾燥条件で、2~3カ月保存できます。

ine4_image3.jpg
温湯消毒(提供:岩手県農業研究センター 佐々木直子)

「送風」
●大型の送風機を用い、いもち病の初発生期から収穫期まで、水田に送風(毎日午後10時と午前4時に約30分、風速約4m/s)すると、いもち病の発生を抑制することが、岐阜県で実証されています。

耕種的方法

「ケイ酸資材の施用」
●ケイ酸資材の施用は作物の病害抵抗性を高め、病害の発生を抑制することが知られています。
●ケイ酸資材の育苗箱施用は、苗いもちの発生を抑制します。また、本施用は本田の初期にニカメイガとイネミズゾウムシの発生も抑制したとの報告もあります。
●ケイ酸資材の本田施用もいもち病と紋枯病などの発生を抑制します。
●ただし、アルカリ性のケイ酸資材は土壌中の有機窒素を無機化するため、窒素が発現し、いもち病の発生が多くなる場合もあるので注意します。

「抵抗性品種の利用」
●イネ品種のいもち病抵抗性は病原菌のレース(系統)によって抵抗性が変わる真性抵抗性と一般的にそうでない量的な圃場抵抗性に分かれます。
●真性抵抗性はこれを侵害するいもち病菌のレースが増えるため、抵抗性が数年で無効になります。
●真性抵抗性だけが異なり、その他の形質が親品種と同じ数種の同質遺伝子系統を混植した多系品種(マルチライン)は、この真性抵抗性を単独で用いる場合より、長く維持できます。
●このマルチラインは、宮城県で「ササニシキBL」、新潟県と富山県で「コシヒカリBL」として栽培されています。
●遺伝子解析の情報などをもとに、いもち病に対する圃場抵抗性が強く、食味の良い品種や縞葉枯病に抵抗性あるいはいもち病、縞葉枯病の両方に抵抗性の品種などが育成されています。
●このような品種を作付けすると、各病害の発生を抑制できます。

imochi_teiko.jpg  2014ine_20-2.jpg
抵抗性品種のいもち病に対する防除効果
 :葉いもち抵抗性品種(左)と罹病性品種(右)
 :穂いもち罹病性品種(左)と抵抗性品種(右)


「伝染源の除去」
●伝染源の除去と、葉いもちの防除を徹底することで、穂いもちの防除を省略する体系が秋田県の一部で行われています。

「発生予察等による防除回数の低減」
●いもち病の発生予測モデル、気象条件、伝染源量の把握などを活用すると、いもち病の薬剤散布回数を低減できることが、圃場試験から示されています。

生物的方法

「微生物農薬による病害防除」
●種子伝染性病害を主とした水稲の病害防除のため、6種の微生物農薬の種子処理や育苗箱への播種時覆土前の灌注・散布が登録されています(表、2014年4月現在)。

表 水稲の種子伝染性病害等の防除に効果のある微生物農薬 2014ine_20-1hyo.jpg
(クリックで拡大します)

●本田でのいもち病(穂いもち)防除のため、ボトキラー水和剤の穂ばらみ期以降の茎葉散布(1,000倍液、200~300L/10a)も登録されています。
●微生物農薬は生きた菌です。このため、本農薬の使用・保存方法は化学合成農薬と異なります。
●微生物農薬は有効期間が化学合成農薬より短いです。
●薬液調整後はできるだけ早く使用し、使い切ります。
●本農薬による種子消毒は化学合成農薬より防除効果の劣ることが多いので、温湯消毒同様、病害が発生していない圃場から採種した種子を、塩水選して用います。
●微生物農薬による種子消毒は温湯消毒との併用で防除効果が安定します。
●育苗期に微生物農薬の種子処理などと他の化学合成農薬の処理を併用する場合、化学合成農薬の種類によって、微生物農薬の防除効果が落ちることがあります。
●微生物農薬の種子消毒は、出芽時や育苗初期が低温の時には、防除効果が低下します。

プール育苗

●プール育苗は育苗期のもみ枯細菌病、苗立枯細菌病の発生を抑制します。
●プール育苗で、出芽ぞろい後、覆土面より水位を高く管理すると、ばか苗病の発生が抑制されます。

その他の方法

●食酢の催芽時の浸漬処理は、種子伝染性の細菌病である褐条病、苗立枯細菌病に防除効果があることがわかっています。温湯消毒と食酢の浸漬処理を併用することで防除効果が高まります。
●水稲種子の酸性電解水(pH2.2、有効塩素濃度80ppm)による密封容器内での温湯浸漬処理(40℃、24時間)は、種子伝染性のいもち病、ばか苗病、苗立枯細菌病および褐条病の防除に有効だった試験例があります。

執筆者 
 小泉 信三
 (独)国際協力機構 筑波国際センター 研修指導者

(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)

◆稲編もくじはこちら