提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


良食味米の栽培法

2008年6月18日

(2014年7月 一部改訂) 

米の食味

●ここで言う食味とは、炊飯米での食味を指します。
●日本では、一般に光沢と粘りがあって、冷えても硬くならず、ほどよい味と甘み、香りがあるご飯が好まれています。
●米の成分のデンプンやタンパク質、無機成分、脂質、ビタミンなどのうち、炊飯米の食味に何が関係しているかが、長い間研究されてきました。
●これまでに、デンプンの中のアミロース含量が低く、タンパク質含量が低いと食味が良いということがわかっています。
●現在では、各種の食味評価装置が開発され、玄米、精米の成分、炊飯米の性質などによって、食味がほぼ推定できるようになっています。
●ただし、農業試験場などで品種を育成する時や、一般財団法人日本穀物検定協会が発表する米の食味ランキングなどでは、最終的には人が食べて判定しています。
●このような試験は食味官能試験と呼ばれ、専門のパネラーが実際に食べ、基準とする品種と比較しながら、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価を判定します。

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食味評価装置を用いた食味測定のようす。
ここでの評価材料としては、玄米、精米、炊飯米を使用するものなどがあります。写真中の2つの機械は炊飯米用の機器(提供 :食品総合研究所)

米のタンパク質含量と食味の関係

●プロラミンという水を吸いにくいタイプのタンパク質が胚乳(白米)の周縁部で増加すると食味を低下させるといわれていますが、その仕組みはすべてがわかっているわけではありません。
●玄米のタンパク質含量がおおむね7%以上の場合には、タンパク質含量が低いと食味が良く、高いと食味が悪い、という関係があることがわかっています。
●しかし、7%または6.5%以下の米の食味を比較した場合には、必ずしも低タンパク化すると食味が良くなるわけではなく、5.5~6%以下ではむしろ評価が低下する傾向にあることがわかってきました。
●一方、幼穂形成期以降の生育後期から登熟期の葉色や体内窒素含有率が低い場合に、高温による背白粒や基白粒などの白未熟粒の発生が増加することが明らかになっています。
●玄米のタンパク質含量を不必要に低くするために、過度に施肥を抑制した結果、登熟期に窒素が不足すると、外観品質の低下を招きやすいので注意が必要です。
●品質と食味を両立させる施肥管理(後述)や適切な地力の維持管理が必要です(「高温障害に強い稲の栽培法」 参照)。

品種、産地、栽培法

●米の食味に一番影響するのは品種です。続いて、産地(気象、土壌)と栽培法収穫時期乾燥法の違いなどです。
●コシヒカリ系の良食味品種の栽培が全国に広がっています(図)

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図 :コシヒカリ系良食味品種の系譜
図の右側の品種たちは、コシヒカリの子孫の大物良食味品種や、それらを親として育成され、現在(平成24年度)、各県で作付3位までにランクインしている品種です。品種名右肩の1~10までの数字は全国の作付面積上位10品種を示します(平成24年度)。全国作付け上位10品種のうち、この系譜に含まれないのは9位の「きらら397」だけです。なお、実際の系譜はもっと複雑です(興味のある方は「イネ品種データベース」などを参考にしてください)


●各県で作付面積上位3位にランクインしている品種のうち、コシヒカリの系譜に連なっていない品種はきらら397、ササニシキ、ハツシモ、日本晴、アケボノの5品種だけです。
●ほとんどの品種の食味は、ほぼコシヒカリ並になっており、食味に関する品種の差はかなり小さくなったといえます。詳しくは「1 品種」の項を参照ください。

●一方、生産地の環境と栽培条件によって、米粒の成長・発達およびデンプン、タンパク質などの蓄積が変化して食味に影響します。

産地の気象

●登熟期の気温によって、米粒の中のデンプン成分が変わります。そのうち、アミロース含量は、低温だと高くなり、食味を下げてしまいます。出穂後30日間の平均気温が23~25℃で、食味が良くなると言われます。
●一方、低アミロース品種では、高温条件ではアミロース含量が下がりすぎ、玄米に白濁が発生しやすくなります。品種によって適温に違いがありますが、普通の良食味品種よりやや低めが適温となり、23℃以下でも食味の評価が高いようです。
●登熟期間の日照が多く、気温の昼夜較差(日較差と言う)が大きいと、日中盛んに光合成する一方で夜間の呼吸が抑えられて米粒の充実が良く、デンプンが十分に蓄積して、収量が増えるとともに良食味となります。
●一方、日照が不足し、充実が不良だと、相対的にタンパク質含量が高くなったり、粘りや硬さも変化したりするため、食味が下がります。
●これが、豊作年の米が冷害年や日照不足の年の米に比べておいしい、おもな理由であり、また、日較差が大きい盆地や中山間地にある多収地帯で、おいしい米が作られやすい理由でもあります。

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秋田県仙北平野の多収地帯の稲。
仙北平野は日本で有数の米どころ横手盆地の中に位置します。品種はあきたこまち(提供 :秋田県農業試験場作物部)


●良食味米の生産には、登熟に適した温度域で、日照が良い時期に出穂・登熟する良食味品種を選び、適切な栽培管理をしましょう。 

土壌と水の管理

●水田の土壌の種類・土質によって、良食味米栽培のための施肥法、水管理や中干しのしかた、排水対策、土作りの必要性などが違ってきます。
●米は地力(※)で穫ると言われます。地力があると稲は健康に育ち、収量が高くなります。
●適正な地力は、食味にも良い影響をもたらします。
●地力の低い水田では、土壌改良、堆肥施用などをおこなって、地力を高めましょう。
●望ましい稲の生育のためには、生育段階に応じて適切に水管理をします。
●適切な透水性は根を健全に育て、登熟を良くし、食味に良い影響を及ぼします。
●なお、早期落水や倒伏などで登熟が不良になると、食味が下がるので注意します。
●土壌と用水の管理では、地力の向上を図り、適正に水管理をすることが、良食味米栽培法の基本となります。
●こだわり米生産のためには、堆肥施用による土作りが不可欠です。 

地力とは、土の持つ作物生産能力をいいます。

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石垣市にある民間の堆肥センター。
石垣市では農業の生産額の約60%が畜産です

品質と食味を両立させる施肥管理

●稲が健全に育ち、登熟するのに必要な栄養成分には、窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)のほか、マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)、ケイ素(Si)などの無機成分が必要です。
●特に、登熟には、窒素とカリが重要です。
●稲が生育や登熟に必要な栄養成分を適正に吸収するためには、適切な施肥設計と地力の向上が重要です(「4 栽培管理の施肥」の項を参照)。
●生育後期の窒素追肥が多すぎると、米が高タンパクとなり、食味を低下させやすいので、注意します。
●「良食味米を作る」として、後期窒素を制限して、タンパク含量を下げる栽培法がありますが、地力が低いとデンプンの蓄積が進まなくなり、おいしい米の生産ができません。さらに、収量が激減し、高温に遭った場合の品質低下にもつながります。
●窒素の肥効を抑えながら、登熟歩合の向上、収量の確保と、米粒の低タンパク化を図ることが、良食味米生産の基本です。

食味は収穫時期、乾燥法でも変わる

●生産の最後の段階である、収穫や収穫後の乾燥・調製を正しくおこなうことも、良食味につながります。
●収穫では、適切な刈取り期の判定が大切です(「適期収穫」参照)。
●乾燥機による乾燥では、送風温度の設定などを、正しい手順を踏んでおこないます(「乾燥・調製」参照)。

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JA八重山郡ライスセンター(石垣市)。
八重山地方は沖縄県の約7割の米を生産しています


●収穫から乾燥の段階で、過熟米、変質米(ヤケ米ほか)、過乾燥米、高水分米などが生じると、胴割れ米、肌ずれ米、砕米、着色米などの原因にもなり、食味も下がってしまいます。

こだわりの良食味米生産

●最近は、良食味米生産のための各種農法や、収穫後の処理にこだわった米生産が盛んになってきました。
●基本は、やはり良食味の銘柄品種や、新品種の利用です。
●農法では、堆肥の施用、土づくり、有機栽培、無機分や有機資材の施用、微生物や独自肥料の利用、アイガモや鯉農法、レンゲやハーブ等の利用、棚田、名水の利用等があります。
●これらと無・減農薬、無・減化学肥料などの栽培法が結びついている場合が多いようです。
●収穫後の処理では、収穫期に天候に恵まれる地域では自然乾燥法、一方、豪雪地帯では雪中貯蔵など、地域の特性を生かした取り組みもあります。
●精米法、貯蔵法、品種鑑定、栽培履歴(肥料や農薬の施用回数・時期等)など、消費者へアピールしたい点を包装に記載する場合には、関係法令に注意する必要があります。

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天日乾燥を利用した棚田米の生産(福岡県八女市)。
八女市星野村は星野川上流沿いの盆地にあり、八女茶の産地でも有名です

良食味米の未来

●全国で作付けされる稲のほとんどがコシヒカリと「コシヒカリによく似たおいしさ」をもつ良食味品種になっています。しかし、本来、人の米に対する好みは嗜好、年齢や性別などによっても異なり、調理用途によっても大きく違います(詳しくは「地域に適応した良食味品種」参照)。
●最近は米飯の粘りの多様化を基本に、食の多様化、加工適性の拡大を図るため、アミロース含量が少しずつ異なる品種、さらには、冷凍ピラフ用の「大地の星」のように、冷凍寿司、ピラフ、カレー、にぎり寿司など、それぞれの調理用途にあわせた品種が開発されています。
●ひとつは、コシヒカリ以上の粘りをもとめた低アミロース米です。遺伝的にアミロース含量が、もち米(アミロース含量ゼロ)とうるち米(アミロース含量15~20%)の中間の値となる品種です。
●低アミロース米は、炊きたてのつやと粘りが良いだけではなく、冷めても粘りを失わない特徴があり、おにぎりや弁当などに向きます。「ミルキークイーン」「おぼろづき」「ぴかまる」などがあります。
●一方で、にぎり寿司をはじめ、ピラフ、カレー、牛丼などの用途では、コシヒカリほど粘らない、さっぱりしたお米が求められています。
●牛丼に利用されている「きらら397」が有名です。最近ではササニシキのおいしさを受け継いで、冷害に弱いという弱点を改良した「東北194号」も品種登録されました。
●また、大量の米飯を供給する外食・中食産業では、食味だけでなく経済性も重視されます。「みずほの輝き」「あきだわら」「ほしじるし」など、食味と収量性を併せ持った品種が開発されています。
●現在、家庭で消費される米の食味向上技術のほか、外食・中食産業向けの調理用途や加工用途別に、経済性と良食味を両立させる栽培法の研究も行われています。

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 :人気の高いミルキークイーン (提供 :大阪市鈴木米穀店)
 :ピラフに加工された大地の星 (提供 :北海道上川農業試験場)


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 :みずほの輝き (提供 :JAえちご上越)
 :低アミロース品種「ぴかまる」の白米はいくぶん白濁している (提供 :九州沖縄農業研究センター)
 

執筆者
堀末 登
(独)農研機構 フェロー
荻原 均
(独)農研機構 作物研究所 稲研究領域

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