提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


プール育苗の実際

2008年4月10日

(2014年12月 一部改訂) 

概要

「プール育苗技術の背景」
●プール育苗は、群馬県農業試験場において、昭和52年に「簡易育苗法」と称したビニールプールを用いた露地における育苗方式を実用化したのが始まりです。
●宮城県農業センターが、パイプハウス等の施設におけるプール育苗に関する種々の研究を重ね、平成元年に宮城県農業センター研究報告に実用化技術として発表しました。
●最近は、育苗の省力化技術としてばかりでなく、病害の発生が少ないことから「農薬節減技術」として広く普及されています。



「育苗方法」 
●水平な置き床にビニールを敷き、5cm程度に湛水できるプールを作ります。
●播種後または、出芽終了された育苗箱をこのプールに並べ、必要に応じてプール内に水を入れて管理する育苗方法です。

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「主な作業手順」 
(1)置き床をできるだけ水平にします。
(2)高さ5~7cm程度に湛水できるプールを作ります。
(3)育苗箱を準備し、播種作業を行います。
(4)置き床に育苗箱を並べ、必要に応じてプールに水を入れます。
 水管理に必要な作業は、水道の蛇口の開閉だけで、4~7日に1回程度です。
(5)ハウス内の温度はできるだけ低め(最高温度で25℃以下)に管理し、最低気温が4℃以上の場合は原則として夜間もサイドビニールを開放状態にします。
(6)追肥が必要な場合は、従来のように肥料溶液を苗の上から灌注するか、肥料の溶液をプール内に流し込みます。

プール育苗の利点

「灌水作業の大幅な省力化」
●灌水作業は、水道の蛇口の開閉のみで、しかも、4~7日に1回程度で十分です。
●水を入れる時間帯はいつでもよく、特に、日中留守がちな農家に適しています。
●散水ノズル等で毎日、10時頃に行っていた灌水作業から解放されます。

「朝晩のビニールハウス開閉作業の軽減」
●パイプハウスにおける従来育苗での温度管理は、夕方にサイドビニールを閉めて、翌朝開けるのが一般的です。
●プール育苗では、原則として最低気温が4℃以上の場合は、夜間もサイドビニールを開放状態にすることができます。
●低温注意報が続くときや、4℃以下になる場合には、保温対策を行います。

「病害の発生が極めて少ない」
●育苗後半の発生が目立つ、ムレ苗や籾枯れ細菌病の発生が極めて少なく、減農薬栽培等において広く普及されています。

「施設内全体の苗が均一になる」
●苗の上から灌水を行う場合、灌水ムラや、ハウス周辺の苗の過乾燥が見られ、苗が不均一になることが多くあります。
●プール育苗では、灌水ムラが少ないため、原則としてハウス全体の苗が均一になります。

「床土量の節減が可能」
●従来の畑育苗方式では、床土の保水性を確保するため、床土の深さを2cm(約2kg)程度にする必要があります。
●プール育苗では、過乾燥の心配がないため、床土量を1cm(約1kg)程度まで減らすことができます。

「追肥作業が容易」
●従来の育苗方法で追肥をする時は、一般的には肥料溶液をじょうろ等で苗の上から灌注します。
●プール育苗では、プール内に肥料溶液を流し込むだけでよく、極めて省力的です。

プール育苗の注意点

「プールを作るためのビニールシートを用意」
●置き床に水を溜めるビニールシートが必要です。
●遮光性のあるビニールシートや、ブルーシートなどを用います(以下、ビニールシートと表記)。
●透明なビニールシートを用いると、下から雑草等が発生し、ビニールが破れるなど、思わぬ被害を受けることがあります。
●育苗箱を設置するときなどは、ビニールシートに穴が開かないように注意して作業し、翌年の再利用を考え、コストを下げるよう工夫します。

「置き床を均平化する」
●置き床をできるだけ水平にする作業が必要です。
●工夫の仕方によっては、比較的簡単に均平にできます(「置き床の準備」で後述)。

「育苗箱の底から根を貫通させない」
●苗箱の底の穴が大きいと、苗の根が貫通し、移植時に育苗箱から苗を取り出すのが困難となります。
●箱底から根が貫通しにくい育苗箱を選んだり、プール育苗専用箱を用いたり、箱底の穴が大きい育苗箱では、敷紙等を箱下に敷く、などの対策をとります。

「苗を運搬する前にプールの水を抜いておく」
●プール育苗では、苗箱に水を多く含んでいるので、苗箱が重く、運搬作業が大変です。
●移植の数日前にプール内の水を抜き、運搬作業の前に苗箱を傾けて、箱内の水を切ってから運びます。

「農薬の育苗箱施用」
●育苗箱施薬は、本田での散布に比べ、作業が簡便で省力にもなるため、普及が進んでいます。

●プール育苗で、農薬の育苗箱施用する場合には、下記の点に留意してください。
●播種時(覆土前)~移植当日など、育苗期間に薬剤を使用する場合は、育苗箱内に施用された薬剤が水の豊富な状態にあり、従来の育苗様式(畑状態)に比べ農薬が早めに溶出する恐れがあります。
●特に、プール内の水温が高い場合には、農薬成分が急激の溶け出し、薬剤の濃度障害が起きる恐れがあります。
●農薬の濃度障害が発生した場合には、回復させる手段がありません。
●床土に混和する成長調整剤や、本田分の肥料を床土に混和させる場合にも、同様の心配があります。
●農薬の使用方法は、各県で作成されている農作物病害虫防除指針等を参考にしてください。
●防除指針等に、特段の記載がない場合には、農薬登録使用時期の範囲内で、移植前日~当日に施用するように努めてください。

プール育苗の手順

 プール育苗における置き床の作り方から、水管理、温度管理等の作業を、模式図で示しながら紹介します。

「置き床の準備」
<育苗箱設置床の枠決めと水平線の取り方>
●プールの置き床は、浅い所と深い所の水深差は概ね3cm以内とし、できるだけ水平にします。

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●ハウス地面の勾配が大きい場合は、適当な所で区切って、小さなプールを作ります。

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●プールの四隅に支柱を立て、水と透明ビニールホースを用いた水管等で、この支柱に水平になる基準線をつけます。

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●支柱の印を目安にして、水糸を張り(水平線)、この水平線を基準にし、プールの枠を設置します。

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●このプール枠の高さは、プール内の水を3cm以上確保できるように、5~7cm程度必要です。

<プールの枠作り>
●プール外枠は、Lアングルや直管パイプ、板等で作りますが、横の水尻側は水位が簡単に調節できるようにしておきます。

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●育苗終了後に野菜等を作る場合は、縦枠をそのままにしておき、横の枠を外して、プールの内側だけを管理機等で耕耘すると、次年度の置き床を水平にする作業が簡単になります。

<置き床の均平化とビニールの設置>
●上記のように外枠を水平に設置しておけば、均し板を用いて簡単に水平な置き床を作ることができます。

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●置き床に敷くビニール等には傷をつけないように、新しいビニールの上下に、不要になったビニールや不織布等を敷くなどの細心の注意が必要です。

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 :木枠を設置した後、シートをかける
 :ハウス全体に傾斜がある場合、このように小ブロックに区切ると、置き床の均平作業が楽になる 


<育苗箱の準備>
●育苗箱の底の穴が大きい箱を使用する場合には、必ず敷き紙等を使用します。
●箱の底から根が貫通しにくい育苗箱や、プール育苗専用箱の場合は敷紙はいりません。
●特に育苗箱の上部に切り込みがはいっているプール育苗専用箱では、箱の中に水が入りやすく、育苗箱の床土量を減らした場合でも、給水時に箱の浮き上がりが起きにくいメリットがあります。

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「播種作業」
<苗の種類>
●原則として、稚苗~中苗が適しています。草丈は長くなるほど活着力が低下するので、苗の種類にかかわらず、10~12cm前後に仕上げるのがポイントです。
●育苗期間が長い場合は、播種量を少なくし、ハウス内の温度をできるだけ低く管理します。
●晩期移植などで、気温が高くなってから育苗する場合には、育苗期間を短縮するか、露地にプールを設置します。

<播種作業>
●培土の種類は従来の育苗と同じです。
●プール育苗では床土の量を1cm程度まで少なくできます。

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●床土を減らした分、肥料の成分量も少なくなるので、早め(概ね播種10日目頃)に追肥します。
●床土量を少なくした場合には、播種時の灌水量も少なくなるように播種プラントの水量を調節します。
●特に、箱の底に敷紙を敷いた場合には、排水性が悪くなるので、覆土直前には床土の表面に水がたまらない状態になるように、注意します。
●なお、緑化が終了したら直ちにプールに水を入れ、常時床土の上まで湛水状態を保つことにより、リゾップス菌や籾枯れ細菌病の発生を、より軽減することができます。

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「プール置き床への育苗箱の設置」
<プール置き床に育苗箱を設置するときの留意点>
●播種直後に育苗箱を運搬する場合には、箱を傾けないように注意します。
●特に、一輪車による運搬では、育苗箱の積み卸し作業時に育苗箱が傾き、加湿障害の原因となりますので、注意します。
●ビニールの上に育苗箱を並べる時は、ビニールに傷をつけないように注意してください。

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●無加温出芽において、育苗箱を置き床に設置した後は、出芽するまで床土が乾燥しないように、被覆資材をしっかり密閉状態にします。
特に、置き床の枠が高い場合には育苗箱の上に空間ができないように、枠の内側で密閉してください。
空間があると高温障害で発芽不良になる恐れがあります。

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「播種から出芽、緑化、被覆資材の除覆時期」
●無加温出芽方法では、出芽揃いになったら被覆資材を取り除きます。この時、既に緑化が完了しているので、プールに水を入れることができます。

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●加温出芽方法では、育苗器で出芽させたら、プールの置き床等へ苗箱を並べ、ラブシート等を被覆し、2日間程度緑化させます。緑化が終了したら被覆資材を取り除き、プールに水を入れることができます。

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「水管理」
●プール内に水を入れる時期は、緑化終了後で床土がやや乾き始めたときで、従来の育苗方法における、第1回目の灌水時期と概ね同じ時期です。
●無加温では出芽揃い後です。
●その後は、プール内の水がなくなり、床土がやや乾いた時に水を入れます。
●水を入れる時間帯は、朝、昼、晩、いつでもよい。
●灌水作業は水道の蛇口の開閉だけです。
●ビニールシートに穴が開いていて、一晩で水がなくなるような場合は、床土が乾燥したら水を入れます。
●水の深さは床土の高さより深く、苗が水没しない程度にします。
●なお、緑化が終了したら、直ちにプールに水を入れ、常時床土の上まで湛水状態を保つことにより、リゾップス菌や籾枯れ細菌病等の発生を、より軽減することができます。



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「温度管理」
●プール育苗では、プール内の水による保温効果によって、低温障害を受けにくいメリットがあります。
●同時に、ハウス内の温度が高いと急激に徒長しやすいので、注意します。
●プールに水を入れる(緑化終了後)までは、従来と同じ温度管理ですが、プールに水を入れた後は、日中25℃以下を目標に、できるだけ低めの温度で管理します。
●サイドビニール等を締め切った状態では、晴天の日は、朝の7時頃でもハウス内の温度は高温(40℃以上)になり、苗の徒長の原因となります。
●プールに水を入れ始めたら、最低気温が4℃以上の場合は、原則としてサイドビニールを夜間も開放状態にすることができます。

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●夕方、サイドビニールを閉めた場合には、翌朝早め(晴天の場合は日の出前)に換気作業を行います。
●最低気温が4℃以下になりそうな時や、霜注意報が出ている時は、夕方早めにサイドビニールを閉めて、プール内の水をできるだけ深くします。苗が水没しても大丈夫です。

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「追肥」
●追肥作業は、従来のように肥料溶液をジョロ等で灌注することもできますが、以下に肥料溶液をプールに直接流し込む方法を説明します。
●肥料の種類は、硫安や尿素より、三要素入りの液肥(10-10-10等)が適しています。
●追肥する前日~2日頃前に、プール内の水を抜き、液肥の500倍溶液をプール内に流し込みます。
●野菜等の追肥に使用する液肥混合器(500倍溶液用)を用いると便利です。

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●肥料溶液は、育苗箱の床土が隠れる程度まで入れます。
●追肥後、プール内の水が少なくなったら、苗の草丈の半分程度の深さまで水を補給します。
●蒸発等によりプール内の溶液が少なくなると、肥料濃度が高まり、肥料による高濃度障害がおきやすくなるので注意します。
●特に、硫安を用いた時には、注意が必要です。
●肥料溶液をプールに流し込むと、プール内に緑も藻の発生が多くなりますが、原則としてそのままの状態でよい。
●ただし、落水などにより藻が苗に付着した状態で乾燥すると、苗の新葉が出にくくなるので、藻を乾燥させないように注意します。

「移植時の留意点」
●移植2~3日前に落水して育苗箱を軽くします。
●プール育苗の苗は、水分の豊富な条件で育っているため、慣行育苗の苗に比較すると、乾燥に弱い性質があります。
●移植時に、苗箱を圃場に運搬した場合は、乾燥しやすい畦畔等に長時間放置しないよう、注意します。
●長時間放置する場合には、時々、苗に水を供給します。


執筆者 
藤井 薫
宮城県大河原農業改良普及センター

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