提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


稲作

水稲直播における鉄コーティング湛水直播技術の実証(茨城県・平成27年度)

背景と取組みのねらい

●背景
 水稲経営の高齢化や急速な規模拡大に伴い、水稲作業省力化栽培の要望が高まっている。
 中でも、比較的容易に技術導入が可能な鉄コーティング湛水直播栽培に対する関心が高く、管内の鉄コーティング湛水直播栽培の取り組み面積は、平成23年の2haから平成26年には40haと、急増している。一方で出芽不良や雑草害等から低収となり、導入をためらう経営体もみられる。

●目標
 鉄コーティング湛水直播栽培の技術実証を行い、初期管理技術を確立するとともに、水稲を中心とした経営体における省力化・作業分散効果を明らかにし、経営メリット、収益性改善効果を検討する。また、新しく導入した種子酸化調製装置及び播種同時薬剤散布機の評価もあわせて行う。

対象場所

●茨城県龍ケ崎市
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(地図をクリックすると拡大します)


 龍ケ崎市は、茨城県の南部に位置する。気候は寒暖の差が比較的小さく、年平均気温は約14℃、年間降水量は約1,300mmである。
 市の農地は北部の台地と南部の低地に2分されている。北部は関東ローム層で、首都圏50km圏内のため、開発による都市化が著しい。一方、南部は水田が広がり、利根川と小貝川に挟まれた沖積土壌で穀倉地帯を形成している。経営耕地面積は1,529haで、その内83%が水田で、水稲が地域の主要作物となっている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


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耕種概要

(1)品種 :あきだわら
(2)作型
 実証区 :鉄コーティング湛水直播
 慣行区 :慣行移植栽培(普通期稚苗移植)
(3)種子予措
 実証区 :浸漬処理積算温度  45℃(3日間×15℃)
 慣行区 :浸漬処理積算温度 105℃(7日間×15℃)
 催芽処理温度   28℃ 15時間

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作業別の能率と効果

コーティング作業能率と効果
 
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コーティング作業

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種子酸化調製機

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団粒化により
コーティング剤が剥離

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焼石膏

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シリカゲル
 

コーティング作業:3月19日

・コーティング比は、0.5。
鳥害対策のため、キヒゲンR-2フロアブルを塗抹。
・種子酸化調製機を使用することにより、従来の育苗箱・ブルーシートでの切り返し作業を省略。
・袋内で種子が団粒化し、コーティング剤の剥離が発生したため、仕上げ材を焼石膏からシリカゲルに変更したところ、種子の団粒化は軽減された。

●型式
コーティングマシン(クボタ KC-300)
種子酸化調製機(金子農機 HFD100)
播種能率と効果
 
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播種時の圃場状態


昨年よりも圃場の均平を確保できた。
・土壌の硬さ(cm)
平均:2.5
最大:4.0、最少:1.0

播種日:4月30日
・殺虫殺菌剤(スタウトダントツディアナ箱粒剤1kg)は、播種同時施薬機「土なかくん」を用いて土中施用、除草剤(プレキープ1キロ粒剤)は、除草剤散布機「こまきちゃん」で播種同時施薬をおこなった。
・播種については、ばらつきが見られたが、おおむね目標の粒数が確保できた。
・播種精度(粒/点)
平均:8.8
最大:12、最少:5

●型式
多目的田植機・播種機
(クボタ WP60D-TC)

出芽・苗立ち能率と効果
 
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・出芽始め:5月4日
・出芽揃い:5月8日
・苗立ち数:85.3本/㎡
・苗立ち率:54.7%

・播種後の天候は良好で、目標苗立ち数70本/㎡以上を確保したが、稲の出芽と同時に雑草が多数発生した。

除草剤散布能率と効果
 
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雑草の発生状況

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 茎葉処理剤散布

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 茎葉処理剤の効果確認後に
初中期一発剤を水口施用


除草剤散布:5月19日
・雑草が多発生したため、茎葉処理除草剤散布。発生雑草を概ね防除できた。

除草剤散布:5月27日
・水口施用により省力的に一発処理除草剤(シリウスエグザ顆粒)を散布。
・茎葉処理剤と一発処理除草剤により雑草を問題ない程度まで抑えることができ、薬害も見られなかった。

●型式
背負動力噴霧機
(丸山製作所 MS613EFR-K)

収穫能率と効果
 
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 収量コンバインによる
収穫作業

収穫:9月29日
収穫時水分:25.8%

●型式
コンバイン(クボタ ER460)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

●成果
1.2年目の取組となり、コーティング作業に問題はみられなかった。実証を行う経営体では、今年度から種子酸化調製機を導入しており、発熱回避、酸化促進作業の労力が大幅に軽減された。しかし、コーティング時の仕上げに焼石膏を使用した際、コーティング種子の団粒化がみられた。そこで、仕上げ資材をシリカゲルに変更したところ、種子の団粒化は軽減された。

2.播種作業は、ほぼ設定通りの高い播種精度が得られた。代かきをていねいに行うことにより、直播に十分な均平度が得られ、圃場の大部分で苗立ち数80本/㎡を確保できた。昨年度はコーティング比0.3で播種したところ鳥害を受けたため、今年度はキヒゲンR-2フロアブルの塗沫処理及びコーティング比0.5で播種したところ、鳥害はみられなかった。

3.初期除草剤を播種同時散布したが、ノビエ及びホタルイが多発生した。そのため、茎葉処理除草剤を散布した後に一発処理除草剤を散布したところ、問題がない程度まで雑草を抑えることができた。

4.播種同時施薬機を用いて殺虫殺菌剤を土中施用した。イネミズゾウムシについては、無施用区に対して高い防除効果が確認された。いもち病は、葉いもち・穂いもちともに見られなかった。

殺虫殺菌剤の効果(イネミズゾウムシ)
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※ A:被害葉率91%以上、B:61~90%、C:31~60%、D:1~30% (各区25株調査)

5.慣行区と比べて実証区の草丈・稈長はやや短く、茎数・穂数は多く、葉色は濃い傾向で推移した。また、実証区では水口付近で倒伏が若干みられた。収量は、実証区は慣行区と比較して低収となった。要因として、茎数を抑えきれず無効分げつが増加したこと、窒素不足により一穂籾数が確保できなかったこと、出穂直後から日照不足となり登熟が妨げられたことなどが考えられた。

収量
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6.実証区の生産原価は慣行区比106.6%、売上高は慣行区比94.8%、補助金収入は、慣行比106.6%となった。以上により、実証区の所得は慣行比104.6%と高くなった。

経営評価(所得)
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低収により、生産物収入・水田活用直接支払交付金が低いが、直播取組交付金により、総計で慣行区比106%となった

7.実証区の作業時間は慣行区より0.73h/10a少なくなり、省力効果が確認された。今回は雑草対策の茎葉処理剤散布で作業時間が増加したが、適切な管理で雑草の発生を抑えることができれば、慣行区比82.3%まで削減することが可能と考えられる。

作業時間(h/10a)
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育苗・移植作業の省力化により、移植栽培より0.73/10a削減。適正な管理により茎葉処理除草剤散布を行わないことで、さらに0.6h/10a削減できる見込み。

●今後の課題
 直播取組に対する交付金により、実証区の所得は慣行区より高くなった。茎葉処理除草剤を使用せず、農業薬剤費を削減するとともに、肥培管理及び水管理を見直し、慣行並みの収量を確保することで、交付金に頼らず慣行並みの所得が確保できると考えられた。

(平成27年度 茨城県県南農林事務所 稲敷地域農業改良普及センター)